遅発性筋痛の病態生理学

野坂和則 遅発性筋痛の病態生理学 理学療法 2001;18(5):476-484

  • 遅発性筋痛(delayed onset muscle soreness ; DOMS)は、運動後数時間から24時間程度経過して、筋を圧迫したり動かしたりしたりした時に知覚され、運動1−3日後にピークとなり、7−10日以内には消失する痛みである
  • 伸張性エクセントリック筋活動を含む運動に伴って生じることから、筋線維あるいは結合組織の損傷、およびその後の炎症反応が原因だとする説(損傷、炎症説)が広く支持されている
  • DOMSと乳酸は無関係であるといっても過言ではない
  • 筋のスパズムと筋の虚血の相互作用がDOMSを引き起こすという筋スパズム説も否定されている
  • 日常生活やスポーツにおいては、重力に逆らった動きをしたり、衝撃を吸収したり、減速したりする際に、無意識的にエクセントリック筋活動が行われている
  • DOMSが発現するのは、運動に不慣れな場合や、運動時間が普段より長かったり、運動強度が激しかったりした場合である
  • DOMSと筋の組織学的な損傷との関連は必ずしも明確でない
  • 痛みの程度が激しいほど損傷も激しいと考えがちであるが、DOMSの程度は筋力やCK活性値の変化との相関はほとんど認められない
  • DOMSの予防法 あらかじめエクセントリック筋活動を含む運動を行い、なれておくこと
  • DOMSの対処法 DOMSが顕著に緩和されることが確認される対処法はない NSAIDの効果は認められていないか、認められたとする報告でも、その程度はわずか
  • 一般に痛みは危険信号だと考えられ、異常を知らせ、痛みが有る部位を安静に保つことを促していることが多い。しかし、DOMSにおいては、痛みが生じるのは運動後であり、仮に運動が危険であることを知らせるには手遅れである。また痛みが有る筋を安静に保たせる信号であるとすると、DOMSのある筋を無理に動かした後、痛みが軽減し、回復過程に対しても悪影響がないことと矛盾する。さらに筋痛が発現する磁気は、組織学的な損傷炎症の時間経緯と一致せず、また、痛みの程度と損傷の程度は無関係である。これらのことはDOMSの生理学的意義に対して疑問を投げかけるものである。なぜ、運動後DOMSが出現するのであろうか。DOMSにはどのような意味、意義があるのであろうか。これらの疑問に対する答えは、現在のところえられていない。