理学療法 痛みの病態生理学12

櫻井博紀、山口佳子、熊澤孝朗 基礎:痛覚系の中枢経路と内因性鎮痛系 理学療法 2008;25(11):1565-1571

  • 痛み系の中枢経路は、一次痛、二次痛に対応した異なる経路を持ち、運動系、自律神経系、情動系と密接に関連することで全身現象に関わる
  • 生体は痛みを伝える経路だけでなく、痛みを抑制する内因性鎮痛系も兼ね備えており、両者は車の両輪のような関係にある。鎮痛機構の一つとして、末梢からの入力によるネガティブフィードバック機構がある
  • 過剰な痛みの入力は、他の神経系との間に歪みを生じさせることがあり、中枢系に可塑的な変容を作り上げてしまうことがある。それをふせぐためには、警告信号としての役割を終えた痛みを早急に取り除くことが必要である
  • 理学療法を行うにあたり、痛みの促進と抑制についてのメカニズムを十分に理解しておく必要がある
  • 痛みの中枢経路
  • 脊髄からの上行系
    • 一次痛 外側脊髄視床路、大脳皮質体性感覚野(SI,SII)に至る 時間的空間的に識別性が高い鋭い痛み 痛みの認知識別に関与
    • 二次痛 脊髄網様体視床路、前脊髄視床路 脳幹の諸核を経由して視床髄板内核群や前頭前野、前帯状回に投射 刺激部位のはっきりしない鈍い痛み 痛みに対する注意集中と覚醒、逃避を促し、情動を喚起する
  • 視床、大脳皮質
    • 外側脊髄視床路は、視床外側の腹側基底核群(後外側腹側基底核VPL),後内側腹側基底核(VPM)で終止する。この各群への心願受容ニューロンには特異的侵害受容ニューロンと広作動域WDRニューロンとがあり、どちらも受容野は小さい
    • 前脊髄視床路と脊髄網様体視床路は、視床内側の外側中心角CLがある髄板内核群で終止する。ここに投射するニューロンの反応は、侵害特異性が低く、末梢受容野や上行路の局在性も低い
    • さらに視床内側から大脳へは、体性感覚野を含む広範な領野に投射がある。特に帯状回前頭葉にも投射があり、その役割は痛覚の識別的な面ではなく、情動、覚醒機序などとの関連が不快と考えられる。
  • 痛み刺激により海馬ニューロンが反応するという報告もあり、記憶の機序が慢性痛となんらかの関連を持つ可能性も考えられる。
  • 内因性鎮痛系
  • 抑制系経路
    • ラットの中脳中心灰白質PAGを電気刺激することにより鎮痛がおこる
    • PAG腹外側部の刺激による鎮痛は、フリーズ、交感神経抑制、筋弛緩に関係するという特徴をもつ ナロキソンでブロック、繰り返し刺激に対して耐性をしめす
    • PAG外側部の刺激による鎮痛は、闘争,逃走行動、交感神経興奮、筋緊張亢進に関係する ナロキソンでブロックされない 耐性もしめさない
    • PAGから投射をうけるRVMのさまざまな核は、脊髄への下行性抑制に重要な働きを持ち、ノルアドレナリン作動系とセロトニン作動系という異なった神経伝達物質を介する2つの系がある
    • 鎮痛系によるnegative feedback 中枢神経系のある部分を刺激すると鎮痛が得られる 創傷して刺激鎮痛 stimulation produced analgesia 内因性オピオイドの関与
  • 痛みの経路の変容
    • 交感神経ブロックが有効なCRPS患者で、ブロック前後の刺激に対する脳活動を比較すると、ブロックによって消失する痛みに関与する脳部位は前帯状回前頭前野で、一次体性感覚、運動野にの活性には変化がなかった。このことは正常時の痛みの反応とは全く違った脳部位の活性が起こっていることを示しており、慢性痛症患者において高次中枢に可塑的変容が出来上がってしまっていることを示している。