松原貴子 痛みのリハビリテーション 痛み治療最前線 理学療法兵庫 2006;12:10-16

  • 国際疼痛学会の痛みの定義 組織の実質的なあるいは潜在的障害に基づいて起こる不快な感覚性情動性の体験であり、それには組織損傷を伴うものと、そのような損傷があるように表現されるものがある
  • この定義によりキズがないのに痛い、つまり警告信号としての意味のない痛みが明文化され、これまで定義づけがなされてこなかった慢性痛の存在がクローズアップされるに至った。
  • 慢性痛は中枢神経の可塑的変化によっておこることが明らかにされてきた
  • 痛みの認知
    • 健常な人が侵害刺激を受けると、視床、島、前帯状回、大脳皮質感覚野などが活動する
    • 一方、慢性痛患者では、侵害刺激を加えると、強い痛みを感じるにも関わらず、視床の活動が認められない。痛みの疑似体験によって不快な情動反応とともに前頭葉、前帯状回、大の皮質皮質感覚野の活動が観察されることが明らかになってきた
    • つまり慢性痛患者では痛み経験を繰り返し、実際に痛み刺激が加えられなくても、脳内で情動的な痛み経験を繰り返すことで、中枢神経系に可塑的な変化を引き起こしている可能性が考えられる
  • ヘルニアは本当に痛いのか
    • 40-70%が無症候性の椎間板ヘルニアとされており、ヘルニアの存在や神経根圧迫がかならずしも腰痛や下肢痛を引き起こすとは限らないとする報告がある
    • 椎間板ヘルニアに関して、1髄核が炎症を引き起こす、2椎間板ヘルニアの科学的因子が痛みを惹起、3サイトカインや神経ペプチドも関与、4炎症により神経浮腫、神経内循環障害、5後根神経節が腰痛下肢痛に関与などあらたな報告が多くなされている
    • 圧迫という機械的な侵害刺激を取り除くだけでは、椎間板ヘルニアの痛みは取り除けない
  • 最近の痛み治療の考え方
  • 慢性痛症の場合、疼痛部位に薬剤を塗布しても貼付しても、消炎鎮痛剤を服用しても全く意味がない
  • 患者が受け身となる治療が先行していた。これは急性痛に対する対処のひとつであって、心理社会的問題を含む慢性痛に対してはほとんど効果がない。受け身的な治療は理学療法士に対する患者の依存を有無出す結果になっていた
  • 個々の人の目的に合わせた目標を設定し、患者がリハビリテーションに積極的に参加するとともに、心理的なケアを受けながら、行動や生活を変革する
  • 慢性痛に対する理学療法のヒント
    • 認知行動療法を展開するには、理学療法士と臨床心理の連携によって進めるシステムを構築する必要がある
    • 認知行動療法のみならず、並行して骨格筋をフル活用した運動をできる範囲でできる部位からはじめ、身体機能のみならず、身体構造の改造にものりだす
    • 構造も変革し、慢性痛に打ち勝てる心身を再構成するこtが必要である、慢性痛を訴える部位にもはや傷はないのだから、動かすことはきけんでない
    • しかし、痛みが長引いたことで、不活動になっていた部位には筋のコンディション不良が生じている。
    • 筋のボリュームアップやパフォーマンス強化を目標に、すこしづつ動かす部位、範囲、強度を広げていけばよい。そして、警告信号して、意味のある正常な痛みの認知と健全な肉体を取り戻してもらうことが重要である