熊澤孝朗 痛みの病態生理学 第1回 痛みについて序論 理学療法 2007;24(11):1485-1490

  • 痛みの理学療法学といったものは未だに確立されていないと思っており、これから理学療法士自身が自らの体験をもとにして、最近の痛みに関する研究成果を踏まえて独自の学問を作り上げていくべきものであると考えている。
  • 「ペインー臨床痛み学テキスト」2008末に翻訳版が出る IASPが示したOT/PTのための痛みのカリキュラムに随伴する教科書として、両療法界に世界的リーダが作り上げた
  • PT/OTはsleeping giantsである
  • 痛みに対する理学療法は現時点では未だ完成のいきまで整っておらず、その完成は理学療法士自身の努力にまかされている
  • 痛みの概念は時代により大きく揺れる
    • 情動か感覚か
    • 痛みを使える系は 特異的、非特異的
    • 特異的痛覚的の存在の確立 1960年代 パール 痛覚受容器およびその情報を伝える中枢経路に関する研究
    • 内因性鎮痛系の発見
      • 脳内鎮痛系の機構についての研究が進み、痛み系においては痛覚の促進系と抑制系が車の両輪のように働いている
    • 神経系の可塑性変容による慢性痛症の研究
      • 慢性的な病的状態においては神経系に各種の可塑的な歪みが生まれる
  • IASPの痛みの定義
    • 痛みは不快な感覚性情動性の体験であり、それには組織の損傷を伴うものと、または伴っている可能性のあるものと、そのような損傷があるような言葉で表現されるものがある
    • ポイント 情動性の痛みも、感覚性の痛みも両方痛みである。身体に障害部位が検出されなくても、患者が訴える痛みが痛みである
  • 慢性痛
    • 慢性痛には2種類 急性痛が長引いたものと、神経系の障害によってうまれた可塑的な歪みからうまれた慢性痛症
  • リハビリテーションといたみ
    • 直面する困難は、動かすことによって生じる痛み
    • 痛みに対する防御姿勢の結果生じる慢性的な不動化により、筋の萎縮変性関節の拘縮、組織抵抗の増加などが、生じ、それがまた慢性痛の原因になるという悪循環に陥るため、リハビリテーションとしての筋活動への介入は、痛みが引き起こすこのような特性に対する対策を工夫することが、手技としてのリハビリテーションの確率に必要である。
  • リハビリテーションの目標 負の可塑性変容に対して、正の可塑性変化を作り出し、正常機能に近づける
  • 筋に詳しいのは理学療法士である

熊澤孝朗 痛みの病態生理学 第2回 痛みについて序論 理学療法 2007;24(12):1597-1605

  • 生体防御系の先住者から痛み系への遺産
    • 神経系発生以前の生体防御系 免疫、炎症系
    • 慢性痛症への移行には、先住の防御系の液性情報系が強く関与している可塑的変容が基になっていると考えられる
    • 末梢および中枢の病変が慢性痛症の誘因としても働いている可能性が考えられる
  • 生体防御、警告信号系としての痛み系の原始性
    • 脊椎動物で見られるもっとも原始的な神経系の働きは原索動物における渦巻き反射coiling reflexという侵害逃避反応、つまり痛み反射であり、我々ヒトにおいてもこの反射の土台の上にすべての神経性調節系が築かれている
    • 痛みの原始性 polymodal受容器
      • 機械的刺激、化学的刺激、および熱刺激のいづれにも反応
      • 皮膚だけでなく、内蔵、運動器など全身に広く分布
      • 興奮性は炎症のような組織の状態の変化などによって著しい修飾をうけるという非特異性あり
      • 痛覚系のみを特異的にブロックする鎮痛法としてカプサイシンを利用することも考えられている
    • polymodal receptor
      • はじめて著者が使用
      • この受容器は機械的刺激に対する閾値が極めて低く、侵害性レベルというにはほど遠い。そして化学的刺激、熱刺激に対する反応は炎症など組織の状態によっておおきく修飾され易いため変化し易く、受容体発現の可塑性が高いことが予想される
      • 神経ペプチドを産生し、効果器の役割を兼務する未分化な感覚受容器である
      • 理学療法に縁の深い骨格筋と関節の感覚受容器ぼ大部分がポリモーダル受容器である
    • 全身現象としての痛み
      • 脳幹部には身体の基礎機能である自律系、運動姿勢制御系などの調節系や脳内鎮痛系があり、痛み系はそれらの様々な系との密な関連をもっていることから、痛み系の働きが全身現象として現れることは明らかである。
      • 神経系の発生、発達にぴったり随伴して発達してきたのが痛み系であるため、生理的な状態においても、また病態時においても、神経性調節を受けるすべての機能は痛み系と結びついている。
      • いったん警報として受信され、医療側に伝えられた痛みは放置されるべきではない。警告信号としての役目を終えた痛みは、「即、止める」である
      • この慢性痛症への最良の対応策は、第一に二次的におこってる急性痛を鎮め、新たな慢性痛症を作り出さないことであり、第二は負の可塑性変容である慢性痛症に対して対抗できる新たな正の可塑性を作り出すことである。