脊椎脊髄 2006;19(10) 器質性疾患と心因性疾患の鑑別診断

佐藤甫夫 ヒステリー概念の変遷 脊椎脊髄 2006;19(10):1028-1035

  • ヒステリーは患者自身が気づいていない動機(心因)によって、意識障害(意識野の制限)あるいは運動機能、知覚機能の障害が引き起こされるもので、これらの障害は患者にとって心理的に有用な場合もあり、象徴的価値を持つこともある。
  • 意識障害を主とするものを解離型dissociative type、運動知覚障害を主とするものを転換型conversion typeという
  • より原始的な段階に退行regressionすることにより、内的葛藤や不安を解消しようとするもの
  • ヒステリー 疾病への逃避 病気になることによって現実から逃避できることを一次利得primary gain さらに病気になることによって周囲の人の同情を集め、手厚い看護を受け、自分をめぐる種々の条件を有利にはこぶことができる(家庭を顧みなかった夫が家庭に戻るなど)利得も得る 二次利得secondary gain
  • 転換型ヒステリー
    • 心因(欲求が抑圧されて生じた無意識の葛藤)が、運動障害、知覚障害、痙攣などの身体症状として現れたもので、このような身体化somatization機序を転換conversionという
  • 解離型
    • 強い情動体験により意識あるいは人格の統合性が一時的に失われる状態(解離状態)を来すものを抱合
  • ヒステリー患者の特徴
    • 誇張的、演技的、未熟、小児的、被暗示性が高い、的外れ応答 vorbeireden,仮性痴呆、Ganser synd、道化症候群
  • DSM IV
    • 身体表現性障害 somatoform disorders (8)
      • 身体化障害
      • 鑑別不能型身体表現性障害
      • 転換障害
      • 疼痛性障害
      • 心気症
      • 身体醜形障害
      • 特定不能の身体表現性障害
    • 虚偽性障害
    • 解離性障害

園生雅広 運動麻痺の鑑別診断 脊椎脊髄 2006;19(10):1037-1045

  • 過剰な検査は、その過程で患者の症状を永続固定させることを助長
  • 器質的疾患が基礎にあったうえにヒステリー性の麻痺を発症するというfunctional overlayという病態も頻度が高い
  • ヒステリー 反射は正常、Babinski徴候は出現しない
  • 上肢では指の屈筋、短母指外転筋、手関節の屈筋、上腕二頭筋大腿四頭筋、下腿三頭筋の麻痺 わかりやすい筋
  • ヒステリー患者の機能予後は不良

桑原秀樹、塩入俊樹 疼痛性患者における精神科診断と治療導入 脊椎脊髄 2006;19(10):1059-1065

  • 慢性疼痛 柳田 痛みの持続期間に関わらず、原因となる器質的病変を完全には否定できないが、訴えに直結する岸的病変が存在しないもの
  • 心因性疼痛から医学的に説明できない疼痛へ
    • 言語の違いや精神科的伝統が異なると心因性の意味合いは異なってくるので、この用語はカテゴリーのタイトルとして使われていない
    • 精神科領域では最近心因性という用語は使用されず、従来の心因性疼痛は医学的に説明できない疼痛に置き換えられることが多い
    • DSMIIIで心因性疼痛障害はDMS-IV-TRで疼痛性障害へ改訂
  • 国際疼痛学会の定義 実質的あるいは潜在的な組織障害に関連して述べられる不快な感覚ならびに情動的体験
  • 慢性疼痛患者においては実際に組織障害があるかどうかは本質的な問題でない
  • 医学的に説明できない疼痛の診断
    • 意図的か否か 意図的 詐病虚偽性障害 意図的でない うつ病
    • 疼痛がどの程度医学的に証明できるか
    • 疼痛が何らかの利得をもたらしているか否か
  • 疼痛性障害
    • 1.心理的要因に関連したもの、2.心理的要因と一般身体疾患の両方に関連したもの 2が圧倒的に多い
  • 治療におけるこころがまえ
    • 疼痛によって就労不能あるいは学校にいけなくなる、医療機関を頻繁に受診し、疼痛が患者の生活の主要な関心事となってしまい、そのため正常な生活パターンが破綻し、夫婦間の不和や対人関係の問題も生じ易い
    • より重要なのは患者の疼痛に対する認識を変えることによって、疼痛に対する行動の変容を促すこと
    • 行動が疼痛によりコントロールされるのではなく、患者自身の疼痛に対する認識を変え、自分でなんとかコントロールできる、なんとかなりそうというように再認識させることで、患者の自分自身に対する見方を、受動的反応的無力から積極的臨機応変有能へ置換し、患者自身が持っている能力にたいする自身の回復を促し、その結果苦痛が軽減され、疼痛に対する能動的で適応的な行動、つまりより良い対処行動を行えるようにする
    • SNRIであるMNP,milnacipran トレドミンは、薬物相互作用に基づく副作用を引き起こす可能性がすくなく、プライマリケア領域で安全に使用できる