PTジャーナル 2008;42(2) 特集痛みの病態生理と理学療法

辻下守弘、永田昌美、甲田宗、鶴見隆正、川村博文 疼痛を有する対象者の包括的理学療法 PTジャーナル 2008;42(2):113-121

  • 慢性痛は、疼痛の症状が長期化するため、身体だけでなく不安や苦悩など精神面に対しても影響を及ぼし、対象者のQOLを著しく低下させることが多い
  • 慢性痛は、次第に疼痛の原因となる組織障害部との関連性が薄まり、生物学的因子の影響よりも心理学的因子と社会学的因子の影響が強まるのが特徴
  • 慢性痛は医学モデルという単面的な理解だけでは不十分であり、生物心理社会モデルといった多面的な理解が必要不可欠となる
  • 痛み感覚によって引き起こされる中枢での陰性な情緒反応である苦悩や、それを周囲の人々に訴える目的で行われる痛みに行動に注目
  • 疼痛は個人的で主観的な体験であり、それが言語や身体により表現されない限り、他人には理解されない
  • 慢性痛では、疼痛のコントロールに対する失敗体験を繰り返すことにより、学習性無力感が生じ、学習能力の低下や学習に対する動機付けの減少などもを来すことで、社会復帰を難しくさせる
  • 患者を早期に社会復帰させるために、学習性無力感を生じさせないように、疼痛のパーソナルコントロールを高めるような学習アプローチが必要となる
  • 人と人を取り巻く環境との関連性によって、その人の行動が影響を受けることを、行動随伴性 behavior contingencyといい、痛み行動の管理とは、この行動随伴性を管理することだといえる。
  • オペラント行動の自発頻度を変化させる結果は強化子と呼ばれ、行動の自発頻度を高める結果を好子、低下させる結果を嫌子という
  • 体を動かすことは疼痛を増強させるものだといった誤った認識を持っている
  • 痛み行動に対する行動随伴管理とは、痛み行動のような不適切な行動を弱めると同時に、自立した生活や労働など適切な行動を増やすこと
    • 4つのプロセス
    • 痛み行動の明確化
    • 行動アセスメント 問題行動を起こさせる原因は周囲の人々の対応にある
    • 実施計画の立案
    • 計画の実施と評価
    • 欧米の慢性腰痛症に対する包括的理学療法 行動理論に基づいた段階的活動プログラム behavior-oriented graded acitivity program
    • 慢性疼痛患者の場合、医学モデルによる疼痛の除去だけでは効果が薄く、逆に医療への依存性を高めることで社会や家族から疎外脱落させる結果となる場合が極めて多い