慢性疼痛の病態を説明する脳内メカニズム:認知に歪みと身体意識の変容を中心に

森岡周: 慢性疼痛の病態を説明する脳内メカニズム:認知に歪みと身体意識の変容を中心に. ペインクリニック, 39:991-1000,2018.

  • 筆者らは、変形性膝関節症術後の痛みの遷延化には、初期の疼痛強度や関節可動域制限ならびに筋力低下といった機能的な問題ではなく、痛み対する固執(rumination)ならびに身体失認様症状(neglect-like syndrome)といった情動あるいは認知的側面が関与することを明らかにした
  • 慢性疼痛の出現やその強度の変調は、求心性の感覚情報の強さによるものではなく、情動や認知といった側面が関与し、むしろそれらの影響によって脳内ネットワークが再編成してしまう
  • 慢性疼痛の病態を説明する脳内メカニズムとして、前頭葉(運動関連領域、前頭前野)の機能不全により、下行性疼痛抑制に関連する神経ネットワークが十分に働かなくなるという問題が指摘されている
  • 背・腹側前頭前野の活性化は、痛みを緩和させる下行性疼痛抑制を機能させることから、逆にいえば、それらの領域が機能不全に陥り、このシステムがうまく働かなくなるのが慢性疼痛の特徴でもある
  • 痛みが生じると運動行動を抑制したり、「運動すると痛みが生まれる」と運動ー疼痛の関係を誤って学習してしまう(概念化)ことがある
  • 運動とともに痛みや恐怖・不安の惹起が繰り返されることで運動がさらに抑制され、痛みを伴わない代償動作や回避行動が強化されてしまう(恐怖条件付け)
  • 学習性不使用
  • それに対して教育的介入
  • 「この身体は私の身体である(身体所有感)」、「この行為は私が行った行為である(行為主体感)」といった身体意識は、視覚、体性感覚、期待される感覚(予測)などの多種感覚の統合によって生まれる。
  • 自らの意図と結果の間に整合性(時空間的一致)が起これば、それを自己と判断する
  • 不一致が生じると自己の身体を重く感じてしまい、加えて身体の喪失感が生じることが確認された
  • 身体意識の生成には頭頂葉を中心とした前頭ー頭頂ネットワークが関与している。
  • 今日ではCRPS患者の身体意識の変容は脳の機能不全であるkとが自明となっている
  • 身体部位認知の不明瞭化(自分の手がどこにあるかわからない)は、疼痛部位の不明瞭化や疼痛範囲の拡大といった症状として出現する
  • 身体意識の変容を訴える慢性疼痛患者に対しては、身体意識生成に関与する脳内情報処理プロセスに働きかける臨床介入が走行すると考えられている
  • 幻肢痛に対する鏡療法やVR system
  • 総称してニューロリハビリテーション
  • 患者が訴える主観的な情動や身体意識を自明とせず、その意識の変容を捉えるための客観的な運動・神経学的評価や質問バッテリーを駆使しながら、患者の愁訴の背景因子、すなわち発現メカニズムを的確に捉えていくことが、今後の慢性疼痛の臨床には欠かせないであろう