精神科治療のモデルとしてのplan-do-chick-act(PDCA)サイクル

斎間草平、井原裕 精神科治療のモデルとしてのplan-do-chick-act(PDCA)サイクル. 臨床精神医学, 44:651-654,2015.

  • PDCAにおいて「サイクルを回す」とは、診察を連続的な営みとすることを意味する。診察を一回ごとの単発にするのではなく、医師、患者の双方が診察の目的を把握し、実現可能な課題を考え、次回の診察に活かせるようなシリーズ形成が治療を前進させると考える
  • 臨床研究や診断統計上の目的によって、操作的診断基準は必要だが、治療を考えるうえでは、診断基準を満たすか否かだけを議論しても患者に資するところは少ない
  • 精神科治療においては、「医師と患者で治療を進めていく」という表現こそふさわしい
  • 医師は、日々、知識を深め、技術を磨いているが、同時に、自分の限界をも自覚しておきたい。
  • 医師自身の熱意が、かえって患者の治療意欲を摘み、受容的な姿勢をもたらしていないかは、注意して置かなければならない
  • 医師は、毎回の診察のたびに患者の希望や意欲、問題点を察知して、患者の積極性を引き出すことのできる新たなきっかけを探す必要がある。「治療」とは共同作業であり、あくまでも患者の積極性あってのことなのである
  • 患者、医師が共同となり治療や環境整備を進める一方で、患者に「この点は医師でなく弁護士に相談するように」と勧めるなど、医師の責任範囲をそのつど明確にすることが望ましい。患者が「医師をすべてを調整してくれる」という過大な期待を招くようになれば、問題解決にかえって消極的になる
  • 精神科の治療とは、薬物療法のことではない。薬物療法でなく、生活習慣をめぐる指導、対人関係をめぐる助言、優先順位に関する提案などをも含む後半かつ総合的な営みである
  • 不眠

—第一になすべきは、睡眠薬の選択ではなく、むしろ、睡眠状況の把握
—実際には睡眠薬投与以前にすべきことが多く、指導するべきことが見つからない患者のほうが珍しい
—いかなる自助努力も放棄した患者に対し、軽率に睡眠薬を投与してしまえば、たちどころにして医原性の睡眠薬依存を創ってしまう

  • 薬物療法にできること、できないことがあることも念頭に置かなければならない
  • 生活習慣をめぐる療養指導、適応状況をめぐる助言、復学・服飾などへの具体策の検討、代替案の提案などを繰り返しつつ、患者と共同して事態の収拾と現状への改善へと向かう。すなわち、薬物療法はあくまでも従であり、むしろ、非薬物療法を主とした治療を行うことが必要である
  • 大切なことは、医師と患者とが、毎回の診察の目的をどちらも理解していることである。毎回の診察の目的は、前回までの課題の達成状況をチェックして、それをもとに実現可能な目標をたてて、それを次回までの具体的な課題として確認することである。医師、患者とで協力して次回までの課題を考え、双方が実現可能性を考慮に入れて、最終的な課題として共有する。主治医はその覚書を診療録に残す。次回の診察の際は、その課題をふまえて、達成状況をチェックするところから診察を始める。その結果、診察が一回ごとに単発でなく、シリーズになっていく