オピオイド鎮静薬の投与を避けるべき患者の診

井原裕: オピオイド鎮静薬の投与を避けるべき患者の診察 ペインクリニック 39:1581-89,2018

  • リリカは米国の「規制物質法」のschedule Vと英国の薬物乱用法のクラスCに指定されており、乱用の危険は明白である
  • トラムセットも同じくschedule V,クラスCに指定されている
  • 忘れてはならないのは、慢性疼痛には、がんの痛みや手術時の痛みとは異なり、心理的な要因が器質的な要因以上に関わってくるという事実である。オピオイド鎮静薬は身体の痛みには効くが、心の痛みには効かない
  • 医師ー患者間にSmithのいう「えせ契約」(Bogus contract)の問題をはらんでいる
    • 医療にできることと、患者が求めることとの乖離がそこにある。患者の期待は大きい。医療にできることは限られている。ここに巨大なギャップがあって、しかも、そのことに双方気づいているに、気づかないふりをしている。そして、医師は患者を騙し、患者も医師をだまし、双方、騙し合いに気づきつつ、いつまでもそれを止めようとしない
    • 医療を過大評価する患者と、過大評価と知りつつ誤解を解こうとしない医者との間で、治療契約は相互欺瞞の営為と化したというのである
  • 患者の焦燥と医師の諦念の最中、麻薬は苦い自腸とともに使用される
  • 「痛みは病気の一部でもあるのみならず、人生の一部である」
  • 医学には限界があり、その限界を越えようとすれば、必ずや重大な有害事象が引き起こされる。患者は痛みの完全な除去を医師に求めてはならないし、医師はそのようなできない要求には応えてはならないはずであろう
  • 無職、単身者、家族以外との対人交流のない人も、麻薬のもたらず多幸感に耽溺するリスクはあると想定すべきである
  • 拙速なオピオイド鎮静薬投与の前に、精神医学的な評価を行うべきだ
  • オピオイド鎮静薬には依存性というアクセルがある以上、精神医学的な評価というブレーキをかけて、暴走を食い止めいよう
  • なすべきは、カウンセリングではなく、指導であり、助言である。時間をかけて悩みを聴くことが無意味だとはいわないが、傾聴して、共感すれば、それで痛みが軽くなるとは、期待しないことである
  • 患者の要求に「ノー」といえる技術・話術は、オピオイド鎮静薬による痛みの治療において必須のスキルである。