治療に反応する患者群とその見分け方

慢性痛 統合的心理行動療法

  • 第10章 治療に反応する患者群とその見分け方
  • TurkとRudyによって提案された痛みの多軸評定(MAP)の原版を発展させたもの
    • 1) 患者の身体的な機能状態 2) 疼痛体験と、それに関連する心理社会的な変数 3) 疼痛行動 4) 精神生理学的な要因 5) 動機づけと治療に関連する要因
    • West Haven Yale 多面的痛み調査票(MPI)を利用
    • 患者を特定の治療に適合させ、別個の方法を適応することを提案している
  • MPIは痛み、苦境、対人関係上の対処能力、身体機能上の制限について患者自身による解釈に焦点を当てる
  • クラスター分析を用いて、慢性痛患者の示す3つのプロフィールが明らかにされた
    • 高度の疼痛・生活障害・情動的苦痛・機能制限を有する機能障害群(Dysfunctional:DYS)
    • DYSに類似するが重要な他者からの援助のレベルが低いことを特徴とする人間関係苦悩群(Interpersonally Distressed:ID)
    • 疼痛レベルは低く、機能制限も少なく、情動的苦痛もほとんどない適応対処群(Adaptive Coper:AC)
  • 3つのグループの腰痛屈曲や、指先ー床テスト、下肢挙上、頚部可動域などの客観的な身体的機能には差異を認めなかった
  • 1) DYS患者はAC患者よりも優位に高いレベルの痛みを訴え
  • 2) DYS患者とID患者は有意に高いレベルの抑うつ気分と主観的な機能障害を訴え
  • 3) ID患者は重要な他者との対人関係の質を、DYS患者やAC患者と比べて有意に低く評価した
  • 分類不能 5-22%
    • 大半はデータ欠損によって分析不能
    • データ欠損 Part 2に関連していた。
    • Part2の教示では、患者は配偶者(もしくは重要な他者)に関する質問に答えなければならない
    • 家族関係を有しない患者はPart2を自分に関係ない部分とみなし、Part2をすべて省略していたようだった
    • 分類不能患者は独居で未婚であったようだ
  • MPI分類システムを用いて治療効果を予測する
    • Turk FMSの治療プログラムを終了した患者を、治療前のMPIスコアを基に3つのプロファイルに分類した
      • DYS群 ほとんどの領域で改善を示した一方、DYS群と同程度の疼痛や障害を訴えたID群は治療への反応は乏しかった
      • ID群の患者は、この群に特異的な必要性(対人関係技能など)を強調する付加的治療要素が必要となる一方で、AC群は標準的な集学的治療の要素は必須でないかもしれない
    • Thieme FMS患者に対してオペラント行動療法と純粋な身体的治療との比較
      • DYS群が最も大きく改善、ID群も臨床的に有意に改善
    • Turk 顎関節症患者
      • DYS群の患者はID群、AC群に比べて疼痛強度や、主観的なTMDの機能障害、抑うつ状態の指標において有意により大きく改善
    • TMD患者
      • TMDを有するDYS患者はDYSプロフィールに独特な問題点を標的とした治療によって身体的、心理社会的、そして行動的指標において有意に改善しそれを維持できることが示された
      • DYS患者に特化させた特異的な要素を組み込むことで、とくに抑うつ状態や障害の領域において治療成績を改善することができる
  • 患者の実証的分類
    • クラスター1 適応対処群
      • 低レベルの疼痛、活動障害なし、情動的苦悩も低い。高度な生活管理能力を有し、非常に活発。ストレスなし。疼痛行動をあまり示さず
    • クラスター2 高度の障害群
      • 高度の疼痛強度、高度の活動障害、高度の疼痛行動、重要他者からの気遣い。オペラント学習による非常に高度な障害
    • クラスター3 サポート欠如・高ストレス群
      • 重要他者からの気遣いのスコアが非常に低値、疼痛行動によって疾病利得を得るというよりは自己を罰しており、高度の感情的苦悩を示し、日常生活で多くのストレスを自覚。非活動的。
    • クラスター4 精神生理的な高反応群
      • 高度のストレス、社会的支援が少ない、疼痛行動に対する強化をほとんど受けていない
  • 特異的的治療の適応
  • 治療への無作為な割り振りでは治療脱落率は32%にも登ったが、クラスター分類に基づく割り振りでは治療脱落率は9%にまで減じていた
  • MPI分類は患者が生来的に有している特性ではなく、環境の変化によって変動しうる状態という観点からの分類である。
  • 治療反応性の予測
    • 手術に対する反応の不良を最も強力に予測する因子は、患者のパーソナリティや気分の状態、社会的・職業的な環境を含む心理社会的要因であることが多数の文献によって示されている
  • 障害の予測
    • 我々が必要としているのは、慢性痛を発展させうる大きなリスクをもった患者を同定できる一連の予測指標である