痛みの共感と向社会的行動

山田真希子 痛みの共感と向社会的行動 生体の科学 2012;69(1):59-62

  • 痛み(身体的、精神的)の共感
    • 認知的共感 cognitive empathy 他人の心を推測し理解する”心の理論"
    • 情動的共感 emotional empathy 他人の情動的共有を指す
      • 背側前部帯状回、前部島皮質(自己の痛みに伴い情動的痛みの脳活動領域)
  • 他人の痛みを観察/想像すると、観察者の脳内ではあたかも自分が痛みを体験しているような共感脳反応がおこる
  • 共感脳反応は誠実な人物に対してのみ生じ、不誠実な人物が痛みを与えられても共感脳反応は生じない
  • 相手の情動反応に対して真逆の反応が生じることを反共感counter-empathyという
  • 痛み共感は、観察者に接近と回避を促す両価的な葛藤現象である。相手の一緒の情動を感じる”共感”が、相手のための情動”同情・哀れみ”にいかに変換されるかが向社会行動の鍵となる
  • 寄付を決定する際、内側前頭前野皮質の活動が高まり、そして、前部島皮質と側頭ー頭頂葉接合部と機能的に連結していることが見出された
  • これは、前部島皮質(情動的痛み)と側頭ー頭頂葉接合部(心の理論)が連動することで内側前頭前皮質の意思決定(救済)が可能となることを示している
  • 他者に痛みが与えられる場面を観察する際、前部島皮質の活動が高まる人ほど、他者の痛みを軽減させるための自己犠牲(自分が痛み刺激を受ける)という利他的行為を行うことが見出された
  • Mastenらは、仲間はずれによる他者の社会的痛みに対する共感脳反応を計測し、共感は、内側前頭前皮質の活動を介して、利他的行動につながることを示した
  • 観察者側に生じる反応は、救済行動につながる”接近反応”よりも自己防衛のための”回避反応”が優勢である可能性が想定できる
  • 共感による苦痛の慢性化は、他人の痛みに触れる職業で出現しやすい燃え尽き症候群burnoutなど、心の健康に害を及ぼすことが知られている
  • このように、注意を痛み共感に伴う自己の不快情動(苦痛)から他者への感情(同情)に意識的に向けることが、共感的苦痛を解消し、利他的行動を生み出す一助になる可能性が期待できる
  • 過去10年以上におよぶ共感の認知神経科学研究により、自己の痛みに伴う脳賦活領域と他者の痛みに対する賦活脳領域が、背側前部帯状回と前部島皮質で重複していることが数多く報告され、共感は、痛みの共有体験shared experienceを基盤に成立すると解釈されてきた
  • 痛み共感は、痛みとは別の情動を反映し、共有体験は必要とせず認知的共感により共感は成立する可能性を示唆している