痛みのカウンセリング

田代雅文 痛みのカウンセリング ー承認から受容、そして変容に到る道のり ー 最新医学 2016;71(12):2482-2485

  • 脳梗塞で脚が麻痺して歩けなくなった患者のリハビリを例にとってみよる。「ある日突然に脚が麻痺した」という現実は受け入れがたいものである。「この麻痺さえなければ歩けるのに」と否認している間は歩けないままである。一方で「この脚は麻痺したんだ」と受け入れると、「リハビリをして歩けるようになろう」とか、「もう動かないのだから、車椅子を使おう」となって、移動できるようになる
  • 慢性痛においては痛みそのものが症状であるので、まっていても消失しない。慢性痛患者をみていると、痛みを受容したことを契機に軽快してくことを経験する。「この痛みさえなければ元の生活に戻れるのに」といっている間は、痛みも取れずに生活もままならないが、「だって、この痛みはあるもんな。ならばこの状態で生活していくにはどうすればいいのだろう」と考えて、なにか新しいことを始め、動きが生活が回復するに伴い、痛みも変容していく
  • 受容
  • Linehanによる受容の定義 受容とは善悪の判断をつけたり、執着したりせず、また事実を歪めずに、ありのままに経験すること」「こうあって欲しいとか、ほしくないとかといったことで曇らされていない、根本的な真理」「徹底的な受容とは、今この瞬間、この現実を分け隔てなく揺するという、全人格をかけた行為であると述べている
  • また、徹底的な受容の前提として、「苦しみの原因は、苦痛そのものでなく、苦痛を受け入れないこと」「現実に起こっている出来事が、起こるべきでないという考えからきている」「徹底的な受容するには、「ーーべき」という考えをすて、今この瞬間に何が起ころうとも効果的に関わること」と述べている
  • ここで患者を受容に導く方法として、承認戦略を紹介する。前項の「受け入れましょう」として失敗した事例に対しては、「痛みって耐え難いものですよね。受け入れ難いというお気持ちは自然だと思います」と、患者の気持ちを承認するのである
  • 治療者が患者の気持ちを受容したことで、患者が自分の気持ちを承認でき、「分かったもらった」体験から自己肯定感が生まれる。承認することで、生活を邪魔していた痛みが行きてきた証となる。異物感の強い「耐えられないもの」から、「だって、それは私そのものなのだから」と「耐えられるもの」に変容する
  • 慢性痛の難治化に関わる因子として、被養育体験での不認証(承認)環境が知られている
  • 承認のレベル
  • 1. 傾聴と関節
  • 2. 正確に反映する
  • 3. 言葉にされていないことを明確にする
  • 4. 理解できる理由に関して承認する
  • 5. 現時点で理にかなっているとして承認する
  • 6. その人を承認できる人として扱う
  • 「あなたは痛みで苦しんており、何も出来ないと感じているんですね。そうなるのは当然のことだと思います。そして、あなたを治せないと感じているときの私は苦しく感じています。一方で、あなたそのものはOKです。なぜならば、あなたには問題に向きあう力があると信じているから。そして、そう信じることで私もOKになれています。