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疼痛と記憶 般化形成と記憶再形成過程の役割

龍野耕一 疼痛と記憶 般化形成と記憶再形成過程の役割 Locomotive pain frontier 2016;5(1):40-46

  • 臨床心理士として運動器の慢性疼痛患者への面接を始めてまず感じたことは、外科的侵襲以外に、交通事故、格闘技、暴力、行き過ぎた躾など直接あるいは間接的体験としてもつ患者が少なくないことであった。身体の痛みに「耐えてしまえた記憶」が、慢性疼痛の症状形成にどうつながるかが最初の疑問であった
  • 感覚的、情動的に不快な体験の「記憶をその患者は面接で「想起」して訴えている
  • 無条件刺激(unconditioned stimulus;US) 生得的に行き起こす注射針の刺入のような刺激
  • 無条件反応(unconditioned reflex;UCR) その結果生じた痛みの恐怖が連合した反応
  • 条件刺激 (conditioned stimulus;CS) 条件付けられて反応を起こす刺激
  • 条件反応 (conditioned reflex;CR)
  • こうして条件付けられた患者は、「注射器」のことを「考えた」だけでも「不安」という情動を感じるようになり、感覚記憶と情動記憶の連合が形成されたことになる
  • 般化(刺激般化) 違う病院の建物を目にしただけでも、街角の献血車を見ただけでも腹痛が起こる
  • 反応般化
  • 多項随伴性
  • 情動反応の般化解消を目指して
    • 「痛み」刺激を罰刺激として捉えて連合する恐怖や不安に苛まれる患者を目の前にしては、できることなら「今、その場」で痛み刺激と膨れ上がった不快情動との連合を解消し、あくまでも「身体科医療」の枠組みのなかに戻してあげたい、と誰しも思うであろう
    • 記憶の固定化 LTP long term potentiation 短期記憶 遺伝子発現の誘導によらない初期( early-phase:E-phase) 新規合成蛋白質の機能によって起こる後期 (late-phase:L-phase) シナプス可塑性との関係
    • 記憶の不安定化と再固定化
    • 消去学習 暴露療法(持続エクスポージャー療法)
    • 交通事故、格闘技、暴力など直接あるいは間接的に体験して抱いた「痛み」の情動記憶が、現在の「痛み」の刺激般化によって、より大きな情動反応を引き起こすとすれば、その般化形成を解除することによって、膨れ上がった情動反応とそれが引き起こす反応般化を沈静化することができ、そこに心理臨床が介在する意味が存在しているといえよう
  • 慢性疼痛の心理臨床領域における私の試み
    • 治療者ー患者関係 打ち明けても構わないと感じてもらえれば、語っていただく痛み体験の記憶に、親身に聴き入る面接者への信頼感と、診察室という守られた空間が与える安心感だけでも、その辛い体験への新たな連合を形成して消去学習を誘導するかもしれない。医療者の落ち着いた、共感性に満ちた態度は、それだけでも、患者の辛い記憶をすでに癒しているといえる
    • ジェノグラムの効用(記憶の臨床検査室)
      • 患者の背景や生育歴を知るためにだけではなく、患者の自分史を語っていただくなかで、過去の不安を語ることを妨げず、その傷ついた体験に寄り添い共感を示す機会を与えられ、優れた治療過程を提供してくれている
  • 安全なクスリ(記憶でつくる鎮痛剤)
  • 患者に楽しい腹を抱えて笑った体験を話してもらい記憶想起を行う。楽しい笑いが生理的鎮痛機序として有効であると説明した上で、その想起直後に痛みがどのくらい減じたか尋ねる。肯定的評価が得られれば、この記憶に名前をつけてもらい、安全でよく効く自前の薬として、持ち帰ってもらう
    • 睡眠衛生指導(記憶のための栄養剤)
  • 慢性疼痛治療に期待したい心理療法
  • 心理臨床でもっとも大切だと考えていること
    • たとえどれだけ傷つき、苦しい体験をされた方であって、その人を”悩める人””傷ついた人”としてみるのではない。その体験を懸命に生き抜き、そしてこれからも、自分が望む人生を歩んでゆくための力をもった方であるという視点を忘れないこと。つまり、苦しい記憶だけを扱うのではなく、リソースや、幸せな記憶、未来への展望、それらすべてを含んだその人そのものにかかわらせていただく、という姿勢を持つこと。その上で、クライエントの訴えの”意味”を考える姿勢が、心理臨床では最も大切である」と。
    • 対人援助の基本を示す岩間の言葉
      • 対人援助にかかる自己決定の原則は「本人に決めてもらうことではなく、本人が決めるプロセスを支えること」である