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線維筋痛症の心身相関と全人的アプローチのための病態メカニズムの理解

細井昌子、安野広三、早木千絵、富岡光直、木下貴廣、藤井悠子、足立友理、荒木登茂子、須藤信行 線維筋痛症の心身相関と全人的アプローチのための病態メカニズムの理解 心身医 216;56(5):445-451

  • 線維筋痛症では、デフォールトッモードネットワークと呼ばれる無意識的な脳活動が島皮質と第二次感覚野と強く連結しているといわれており、これが中枢性の痛みとして、過活動に伴う筋骨格系 の痛みや自律神経機能異常といった末梢性の痛みと合併し、複雑な心身医学的病態を構成していると考えられる
  • ペーシングを調整し、意識と前意識や無意識の疎通性を増すための線維筋痛症患者に対する全人的アプローチが多くの心身医療の臨床現場で発展することが望まれる
  • 線維筋痛症を含む慢性疼痛難治例では、作業のペース配分(ぱcいんg)が苦手であることが多くの、その背景に物事に対する焦り、強迫性、罪悪感といった心理的特性が影響している
  • 一気に物事を済ませて全て終わってからゆっくりしようとする、一見合理的ではあるが極度に強迫的な認知行動特性が認められることが多く、交感神経系過緊張の状態が持続するために、副交感神経機能によるリラックス感を得るのに時間を要するようになる。全て終わってからリラックスしようとしても容易には緊張が緩まずに、徐々に疲労を持ち越していくことになる
  • 強迫的で時間を惜しんで作業に取り組む姿勢 周囲から社会的に人称 社会的に強化
  • 過剰適応で休みがなく、強迫的に作業を持続する中、作業中には交感神経の過緊張により疼痛閾値が高くなり、作業が終わってもかなりの時間が経過した後に、耐え難い痛みが生じることになるため、「ゆっくするとかえって痛くなる」という認知が固定し、「自分は心理的にも緩まないほうがいい」という考え方で強迫的に行動が持続する
  • 対策 作業時間量と痛みや疲労の関係を把握する 作業の量や区切りでなく「時間に基づくペース配分」に変える 活動スケジュール作成(均等分散、適度な総量、活動休息時間)
  • 慢性疼痛の難治例 過活動・強迫性による痛みの悪化の時期から、活動の様式は変えずに、活動の頻度が減り、結果的には心身の疲労のために、ほとんど動かないという不動の状態を維持している場合もある
  • 一般的な日常生活活動においては不動になっている慢性疼痛難治例であるが、安静時に「心よりリラックス」しているわけではなく、罪悪感や自己否定感などで不快情動を覚え続けており、そのためにパソコン・携帯電話・タブレットなどのモニターを長時間使用し不快感による「嫌気」を「気晴らし」つづけていることも多い
  • 能力の高い症例ほど限界まで心身を追い込んでからようやく病院を受診していることもある
  • 多くの症例で認められるのは、幼少期から厳しい生育環境。親自身が過活動であり、休息を許さない改訂の雰囲気が基礎にあることが多い
  • 種々の問題で両親に余裕がない状態があり、患者本人は子どもとして十分な甘えを享受できなかったことで自己肯定感が得られていないことが多い。
  • さらに日々の過干渉・低ケアの養育スタイルの問題があり愛着スタイルに問題が生じていたり、身体的・心理的・性的虐待、ネグレクトなどのトラウマが語られたりする
  • 過剰適応・過活動が患者の環境に取り込まれており、適切な治療環境を設定するには本音を十分に言語化することが重要であるが、患者本人が自身の感情に気づく能力が育っていない失感情症傾向が高いため、本人の心からの自己主張を引き出すことが困難である
  • 重症例で最も困難であるのは、長年にわたり繰り返されてきた環境のストレスにより、患者に受動的な自己象が構築されていることである
  • 治療の山場となるのは、多くの束縛を外した後に患者が実感する大きな不安である。それは主体的に生きてこられなかったことにより、自身の生き方を自己決定するために必要となる自信がないことから生じている
  • 思春期に発達課題として重要である反抗とう自己主張が許されず、自己主張をしようとしても虐待的な行動で抑えこまれてきた症例では、自己決断として自身の生き方を作っていくことは医療者が想定する以上に患者にとっては大きな一歩であり、この段階には症例の重症度に応じた十分な時間をとって治療スタッフが熱心にサポートを行う必要がある
  • 線維筋痛症
    • 安静時の脳活動の異常 、安静時の機能的な脳活動の結合性の異常(resting state functional connectivity)
  • なにもしないで安静にしている時により活動が上昇する脳領域のネットワーク default mode network;DMN
    • 線維筋痛症症例では、海馬体や側頭葉といった情動記憶・エピソード記憶・陳述記憶および視覚記憶や聴覚認知に関与する脳部位が含まれているDMNが、島皮質と第二次感覚野と強く連結しているという報告がある。これは、過去の情動体験が安静時の体感や不快情動として認知されやすい線維筋痛症の病態と相関する脳科学的知見として興味深い
  • 不快情動体験の記憶がある一定以上の容量を越えると、意識に押し寄せてきて、意識という作業領域が狭くなり、意識的な作業効率が悪くなる。何らかの意識を要する過活動を行うと意識の空間がかろうじて維持できるため、線維筋痛症難治例においては、活動することが不合理と想定されるような疲弊した状態でも意識的な過活動が継続されてしまう(過活動のスクリーンセイバー仮説)
  • 抑圧されてきた不快情動体験を、患者自身が苦しみ嘔気を覚えながらも主体的に意識化し、治療者とともに過去の自分の苦労を現在の自分自身がしっかり労い意識的に統合することが、根本的な治療のための戦略となると考えられる