顎関節症咀嚼筋痛障害の治療と治療者の思い 顎関節症を専門とする私

渡邊友希 顎関節症咀嚼筋痛障害の治療と治療者の思い 顎関節症を専門とする私も失感情症 ペインクリニック 2015;36(8):1087-1093

  • 生理的な歯の接触時間 1日 17.5分
  • 仕事や家事、勉強に集中している時間に、首や肩顎の筋肉を軽度、気づかずに緊張させている(過緊張)現代人は多い。この『軽い緊張』がポイントで、軽いからこそ無意識に長時間できてしまう。軽い噛みしめが持続することにより咀嚼筋群やその周囲の頭頸部の筋緊張が生じで筋筋膜痛となっているのだが、本人は無意識の噛みしめに気づいていないので、『なんで顎がいたいのだろう?』となる。
  • 身体化している顎関節症の場合は筋緊張を感じていないが、肩凝りなどの場合は筋緊張を自覚している。この差はどこから来るのであろうか?
  • これも無意識だが慢性痛特有の『実は治りたくない患者』あるいは『痛みを演じていた患者』なのかもしれないと考えていた
  • 今になって振り返ってみると、幼少期は、「親からの虐待がトラウマとなり「歯を喰いしばる」ようなつらい日々だったのかもしれない。言いたいことも言えない環境が続いて、失感情症となり、自己主張ができに現在に至ったのだろうか
  • 「痛みを演じていたい患者」ではなく「過去のトラウマにより筋緊張が強くなり、現在の痛みに悩まされている患者」だったのであろう
  • コメント 細井昌子
  • 顎関節症の軽い長時間の噛みしめは、「無意識の癖」とも表現されるとのことで、失感情症の症例において「無意識の意識化をどう援助するかが最近の私の関心の一つ
  • 大変な生育歴を抱えておられる症例ほど、交感神経の鎧で心と体を固くして日々闘っておられるため、淡々とした表情で感情を交えずに自分の苦労を他人事のように話されることが多いようです。感情を吐露していてはやっていられないほどの日常であったのでしょう
  • 慢性痛は生き方習慣病である
  • 慢性痛は、苦労の多い人生の中での「生き方習慣病」と考えて、心理社会的ストレスに対して認知、情動、行動面の対処法を見直すことで、治療の転機がくることが多いように感じています
  • つまり、認知、情動、行動面の見直しを、患者さんとの治療的対話でていねいに見直していく、「アート」と「サイエンス」が、慢性痛の心理アセスメントとして機能すると思います
  • 蓄積された「無意識の意識化」を日常的に自分で可能にするテクニックがあると、器質的、機能的な痛みに心理的苦悩が合併する慢性痛の破局化を軽減することができるようになるようです。治療的対話では、患者と治療者の言葉のやりとりで、自信で気づいてこなかった様々な思いを言葉にしていく過程で、自身の本音を知る面白さを発見していただくことになります
  • 私が慢性痛の治療で実感していることは、身体化している患者は、暗闇にいるようにけっして楽ではないわけで、身体化はある程度残しつつ、ありのままの感情を認めていく作業を学ぶ中で、徐々にではあっても身体化があまり必要でない状態になっていくことが可能であるということです。むしろ、さわやかに生き生きと変化されることが多く治療者冥利を感じることも多いです
  • ありのままの感情に気づくことを阻害しているのは、多くは幼少期から繰り返し語られた「べき思考」(精神分析的には超自我と表現されますが)であり、両親の思いに沿っていないという罪悪感や自己否定感などであることが多いようです