細井昌子、小幡哲嗣、河田浩、富岡光直、有村達之、久保千春、須藤信行 慢性疼痛と養育環境 難治化の背景 1 ストレス科学 2011;25(4):289-296

  • 難治化を促進する因子
    • 医療不信・疼痛行動(痛みの存在を示す行動)・破局化・依存性・怒りや攻撃性・対人過敏性・失感情(自身の感情への気づきが困難)傾向・過活動
  • 治療を阻害する因子
    • 知的あるいは情緒的発達障害の存在、パーソナリティ障害(自己愛性、境界性、回避性パーソナリティ障害など)あるいはパーソナリティ障害傾向の存在
  • その他
    • 養育過程での愛着形成の問題、身体的・心理的性的虐待やネグレクトなどの虐待の問題、幼少期の家庭内暴力の見聞といったトラウマの存在、過去から現在に至るまでの家庭内交流不全の問題、それに伴う自己否定感や自尊感情の障害などが、現在の病態にも影響を与えている
  • 九州大学心療内科 慢性疼痛性障害 入院治療 30名
    • 15名 家庭内交流不全(特に夫婦間)、15 親に問題がある症例、11 同胞葛藤
  • 人生早期の養育環境そのものは患者自身の努力で選べないことから、「受動的に」体験させられた否定的体験であり、基本的には「被害者」としての苦悩が根底にあるということである。そのなかで患者は自らの否定的感情を内面に閉じ込めて「前向き」に努力するといった患者なりの適応的努力を行ってきたものの、それが過剰適応、休息のない日常生活スタイル、失感情症といった心身症の発症リスクを上げるような形になっている
  • 女性患者のなかには、親、とくに母親の愚痴を一方的に聞かされてきたため、「愚痴を言う」あるいは「弱音を吐く」ことに対して嫌悪感があり、「前向き」に極端に思考している場合がある
  • 慢性疼痛の治療において、過去の養育環境が「過去」のみでなく、「現在」にも大きく影響し、不信に伴う交流不全として治療の阻害因子となっているという現実がある
  • 自分という存在や自分の内面に起こる自然な感情や思考に対して、各親がどれだけ敬意をもって耳を傾けて受け止めてくらたかという言語的・非言語的な認証が、その後の生涯を通じて持続する自尊感情や自己肯定感を生み出すことに重要である
  • 自分の感情への気付きの乏しい失感情症は、各種の痛み疾患で痛みによる生活障害や否定的感情に正相関していることがわかっており、養育の過程で失感情症を引き起こさないために役立つ可能性がある
  • そのためには幼少期から「自分の感情は敬意を払って感じるだけの価値がある」と実感することが重要である。つまり、自分の内面に沸き起こる漠然とした否定的あるいは肯定的感情を「今、ここ」の体験として自分以外の人間を前に言葉に出して味わい他者に自分の内的苦悩を受容してもらう体験を人生早期に得られたかどうかが、「現在の自身の感情をモニターして自分の行動を決定する(例えば嫌なことを嫌だと言えること)」が可能となり、過去や未来に過度にとらわれることなく「現在を生きる」ことができるようになるかどうかに大きく関与しているようである
  • 内面に大きな否定的感情・認知が沸き起こり、その体験に耐えられないという絶望的体験をしていたということが、心身医学的治療のなかで明らかになることを多く経験する
  • 今までに表出できなかった患者の内面の苦悩を話し合い、治療者を前に「言葉に出して話すことをで自分が楽になっていく」という体験を積み重ねていく中で、実存的な苦しみを治療対象にするという心理療法が導入可能になる