痛みのニューロイメージング 主観と客観

池本竜則、林和寛、牛田享宏 痛みのニューロイメージング 主観と客観 関節外科 2015;34(4):51-58

  • pain matrix 痛みにかかわる脳領域
    • 健常者 一次体性感覚野、二次性体性感覚野、前帯状回、島皮質、視床
    • 第一次侵害受容野 primary nociceptive cortex 後部島皮質領域 この領域に関しては痛みの感じ方の個人差に関係なく、健常者の侵害受容全般に関与する脳領域である可能性がある
    • 痛みの感じ方の個人差は大脳皮質レベルにおける神経活動で説明されうる可能性がある
  • 痛みやその強度を決定する要素 痛刺激などにより生じる末梢神経からのシグナルの強度の要素と、そのシグナルに対する情動反応の要素に分けられる
  • これまで我々が渉猟しえた範囲においては、痛いという感覚と痛みを感じない感覚を区別する脳内神経活動の決定的な違いは見出されていない
  • 帯状回領域は、pain matrixの中でも痛みの不快感を反映する領域と考えられていたことから、島前方領域の神経活動の上昇から前帯状回の神経活動が発動し、不快感から痛み感覚へつながるのではないかと考察される
  • thermal gill illusion pain 不安や恐怖感を伴うケースにおいて通常単独では非侵害刺激として認知される温冷覚でも、それらを同時に組み合わせることにより侵害刺激として痛みを感じること
  • 人が痛みを感じる場合には、刺激そのものよりも本人の脳内を覗くことが重要と考えられるものの、前帯状回領域は痛覚以外の感覚刺激に対しても、また社会的疎外感を受けた場合においても活発な神経活動を生ずることが知られており、その神経活動だけで痛いかどうかを判断することはできない
  • VASが50以下の軽度ー中程度の痛み強度の場合は前帯状回の神経活動が、VAS50を超えるような強い痛み強度を決定する場合には、対側一次体性感覚野の神経活動が重要な役割を担っている可能性が示唆された
  • 帯状回ー比較的弱い痛みのエンコーディングを反映
  • 条件付けの違いが前項に挙げた島前方部や前帯状回の神経活動の違いとして表されていた。従って、これらの領域の神経活動の増減は、痛みのあるなしだけでなく、痛み強度の決定そのものにも影響を与えていることが示唆される
  • このことは個々人にとって不快感(不安や恐怖感)を増強するような環境が作り出されることで、痛みが生じやすい条件が形成され、逆に不快感を減弱させる環境を作り出すことで、痛みそのものを減弱させうる可能性があることを神経生理学的側面から示唆している
  • アロデニア 健常者のpain matrixとは異なり、補足運動野や前頭葉に至る広範囲領域で神経活動が観察された。このような実験から、健常者と慢性疼痛患者の痛みの感じ方は、脳内のレベルで異なっていることが示唆され、痛みという特異的な感覚を司る脳機能局在は痛みの病態により異なることが予想された
  • Apkarianらの総説 健常者が経験する実験的レベルの痛みに関しては、比較的共通した脳領域の神経活動が検出されるのに対して、病的状態に陥った疼痛患者が経験する痛みになると、その性質や特性が異なってくる可能性が示唆されており、慢性的な痛みの脳内認知過程において、いわゆる共通指標となる脳内pain matrixを評価することは困難となるのではないかと考えられる
  • Apkarian それぞれの「痛み反応」に共通した脳領域を見出すことは困難であると報告
  • 健常者に対する実験的な痛刺激に限定すると、脳内pain matrixの活動部位やその賦活程度(encoding)により、それらの主観的な痛みの強度についてはある程度客観的に評価(decoding)できる可能性は高いが、痛み患者における脳内pain matrixについては多種多様であり、その痛みの主観をencodingするにはさらなるbreakthroughが必要であると考えられる