慢性疼痛の心身医学的診療:治療的対話の工夫

田代雅文、山田信一、山本洋介、細井昌子 慢性疼痛の心身医学的診療:治療的対話の工夫 慢性疼痛 2013;32(1):79-87

  • 疾病利得という見方は症状が持続しているメカニズムを医療側が説明するのには便利だが、疼痛行動の背景の本質的な患者の苦悩や葛藤に対して、心理社会的に介入することなしに回避の場を奪うことになり、肯定的な対処法を持たない患者にとって苦しみが増えるため、かなりの抵抗にあう
  • 対話そのものが治療になっているという「治療的対話」を供覧することが、今回の講演の趣旨である
  • 河の流れのメタファー
    • 河の下流 慢性疼痛の心身の表現型 「体が痛い、つかれた、もうだめだ」
    • 河の中流 未分化な不快感に対する回避としての過活動や強迫性 「予定をいれないと心配、何かをしていないと落ち着かない」
    • 河の上流 否定的感情 「何もしない自分は価値がない、相当のことをやって価値を実感」
  • 「それはお困りですね。皆さん、そういうときに自分なりの対処法っていうのをやるんですよね。あなたはどんなことをされているんですか?
  • 痛みを介したやりとりから、生活環境についてのやりとりにいかに話をもっていくことができるか、について取り上げた
  • 本人の希望を否定せずに、いつのまにか移行していっているところが今回の面接の肝といえる。それさえできれば、初回面接は成功したといえるだろう
  • 面接の当初に、患者はずっと「痛い、痛い」と痛みを訴え続けていた。しかしながら治療者が「あなたには痛みがある」と保証することで、そこを認めてしまっているので、患者は痛みを訴える必要がなくなってしまう
  • 評価のエンドポイントを痛みにおくと失敗する。私は痛みは、準備因子、発症因子、持続因子とわけて考えていくわけですけど、発症因子は今回事故ということが明らかですけど、準備因子については、あなたがどう生まれてどう育ってきたかという生育歴を聞くことで参考になるし、持続因子についてはあなたがどういう生活をして、どう働いて、どういう対処をしているかを根掘り葉掘り聞くことでわかる部分があると思います。今日は時間がないですけれども、よかったら一緒に考えていきましょう
  • IQの低い人の多くは、社会的サポートも上手にうけておらず、大変困っておられる。それで、「たいへんだったね、よしよし」と苦労に共感することで、納得されて、それだけでいいという感じの方がおられますね
  • 頭のいい人は理論思考、そうでない人は感情思考
  • 怒りというのは痛みの治療においてもメインテーマ
  • このひとがどういうことで怒りを覚えたかというのを聴いていくと、それがわかると「その人が怒りを持つのは当然だな」と、理解可能になります。億がよくやるのは、「前の先生はどうでしたか」「前の病院はどうでしたか」と質問する。患者さんはあまり言いたがらない人もいるし、怒りをぶちまける人もいらっしゃいますけど、「どういう治療がどうだったのか?」、「先生のどういう話に起こっているのか?」ということを具体的に聴いていくと、その患者さんの地雷が何かということがわかります。
  • 「そうなると腹立ちますね。そんな怒りを今のところどうやって対処しているんですか?」と聞くと、その人なりの対処法などというものがでてくる
  • 怒りがいかに体に悪く作用しているかということを説明して、ずっと話しながら、すこし、その人の怒り、言葉にできないことをこちらで言葉にしながら話をしたりしております。
  • 難治性慢性疼痛患者 自分の主張を正当に述べる力、いわるゆアサーションの力が非常に落ちていて、ものずごく攻撃的に述べるか、一方的に受け止めるかのどっちかに偏っていて、相手の話を聞いて自分の気持ちもいい具合に主張するという力が少ないというtこに非常にびっくりすることがあります。それを聞いている内に、お怒りの話を聞いているうちに、「それが伝えられないんですね」になってきたら、「それは大変ですね」ということで、「対人交流の技術というのをあなた練習していかないと大変はことになりますね」という形で、対人交流のコーピングということでそちらにもっていく、そういうことをしている方もいます。
  • 「どこが痛いの?」(pain sensation)でなくて、「なんでお困りですか?」(suffering)に間口を拡げたら患者さんはなんでも教えてくれる、というのがわかりました。
  • まとめ
  • 患者の痛みにたいするコーピングスタイルは日常生活のなかで趣味や得意なこと、仕事の問題解決のやり方を流用していることが多い
  • 心理的問題はストレートに尋ねると患者が防衛的になり、うまく聴取でいない場合もあるが、生活環境などの社会背景を具体的に尋ねることで、患者の認知行動特性が明らかになり、心霊的背景も浮き彫りになってくる