前田吉樹 痛みの恐怖条件付け MB Med Reha No.177:25-30,2014
- 近年、古典的条件付けの一つである「恐怖条件付け」によって運動と痛みの恐怖が結びつくとが健常人を対象とした実験的検証によって明らかにされてきた
- さらに「運動に伴う痛みの恐怖」は治療の対象としても注目されており、条件付けと対をなす「消去」の手続きを応用した「段階的暴露療法」が運動器の慢性疼痛を対象に行われ、有効性が報告されている
- 古典的条件付け(レスポンデント条件付け)
- パブロフの犬の実験
- 餌を予期するベルの音(条件刺激;CS;conditioned stimulus)を聞かせると、唾液(条件反応;CR;conditioned response)が分泌される
- オペラント条件付け
- レバー押しの直後にラットにえさを与えると、レバー押しの頻度が増す
- レバー押し;オペラント行動、えさ;報酬rewardとしてオペランド行動を強化
- 「運動に伴う痛みの恐怖条件付け」とは、運動と「痛みへの恐怖」が結びつく過程
- 腰を曲げた時に痛みを経験することで、腰を曲げるという動作そのものに恐怖を感じるようになる
- 「腰を曲げること」がCS
- 「痛み」がUS;無条件刺激;unconditioned stimulus
- 運動を避ける事で「痛みへの恐怖」から逃れることができるため、「運動を避ける」というオペラント行動が強化される
- 「痛みへの恐怖」が強い患者ほど慢性痛に移行しやすいだけでなく、運動機能やADL、就業率の低下が「痛みへの恐怖」の強さと関連することが知られている
- 「痛みへの恐怖」ー治療対象ともなる
- 痛みのへの恐怖と結びつく条件刺激は、「外受容性」「内受容性」「固有受容性」の3つの刺激に大別できると考えられている
- 外受容刺激 五感によって知覚できる一般的な感覚刺激
- 内受容刺激 発生源が身体の内部にある刺激 動悸や空腹感・息苦しさ
- 固有受容性 身体の姿勢や位置についての求心性入力の知覚
- 痛み恐怖条件付けは「痛みの直接的な経験」以外の経路によっても獲得される。例えば、「その動きは腰を痛める」といった言語の教示や他人の痛がっている様子の観察でも条件付けが成立することが報告されている
- 条件付けの消去 CSがUSを伴わないという、条件付けと対極にある"新しい関係性の学習”と捉えている
- 「運動に結びついた痛みの恐怖は、痛みを伴わない同じ運動の繰り返しによって軽減できる」という事実は、運動器の慢性痛に対するリハの重要性を示唆する結果といえよう
- 暴露療法 恐怖条件付けの消去を応用した認知行動療法の一つ。恐怖と結びついた刺激にあえて身をさらす(暴露する)ことで、刺激が恐怖と関係がないものであることを少しづつ理解させ、恐怖を取り除くことを目的としている。精神医学の分野で用いられており、恐怖症やPTSDのような不安障害の改善に効果がある
- 痛みが慢性化する過程において、「運動に伴う痛みの恐怖条件付け」は受傷後の比較的早期に成立し、痛みの慢性化の重要な基礎となって後の心理・社会レベルの変化にまで影響している可能性がある。運動に伴う痛みの条件付けとその消去のしくみを理解することは、l慢性痛のより詳細な病態の把握や、治療アプローチの模索に役立つであろう
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