職場復帰を目指したペインクリニック診療:神経ブロックとともに心理

藤本真弓 職場復帰を目指したペインクリニック診療:神経ブロックとともに心理社会的問題への支持的カウンセリングが有用であった中年期慢性痛の2症例 ペインクリニック 2014;35(8):1109-1114

  • 症例1 
    • 介護の必要な母親を心配して悲観的→受診時には日常生活の悩みや母親の心配事などを聴き、不安の表出と気持ちの整理を促す会話を心掛ける
    • 母親が施設入所。自責の念。施設の対応への不満→支持的カウンセリングで励まし続ける
  • 症例2
    • 受診の度に世間話や子どものこと、その他の家族のことなど話すように心がけた。→心理社会的問題はないと思っていたのだが、結果的にはその部分が痛みに大きく関与していた可能性が高いと思われた
  • 筆者は「痛みからの解放」を治療目標に掲げるのではなく、「社会復帰、自立」を目標とし、その手段として痛み治療、というスタンスで診療にあたっている。
  • 診療で心がけていること
    • 本人にしかわからない苦痛を理解しようとする姿勢を示すこと
    • 痛みを軽減するために力になりたいという気持ちをveralあるいはnon-verbalに伝えること
    • これまでの患者の人生に敬意を払い人として尊重すること
    • 過去を大事にしながらも前を向いていくための励す
    • 否定的な発言は控えること
  • 治らないとはいわないようにしている。「少なくとも今よりは良くなります」など、現実を踏まえた上で希望をもているような言葉をかけることで患者は強くなれると信じている
  • 本人の着ているものや髪型、表情などについて話題にすることで「あなたを大事に思って診ています」というメッセージを伝えられる
  • 笑顔が見られるようになったら職場復帰の話を切り出すタイミングと理解している
  • コメント 細井昌子
  • 「高ケア、過干渉」の養育スタイルを母親から受けていた可能性。母親が自分に対して相当のケアと干渉を行ってきたために、「相当のケア」を返さなければならないのではないかという義務感のようなある種の苦しさを感じました。過剰なケアを返さないと母親の恩に報いることができないと感じる「重い愛」に苦しんでいたのではないでしょうか
  • 「水鳥タイプ」水鳥は一見平穏にみえるが、水面下で必至にかいている「適応努力のためのもがく動いている
  • 診療の場が「身体症状だけを語る必要がない雰囲気である」ことも、患者さんが診療の場で心理社会的問題を自然に語り、気持ちが楽になっていくために、予想以上に有用なようです
  • 治療者の意見を素直に聞けないような症例の場合、治療者がいやな気持ちになり、患者さんとの交流に苦手意識が芽生えて支持的カウンセリングが進みにくくなります。その際には「なぜこの患者さんにはこのような他者否定の考えが身についてきたのか」に興味をもって、徐々に生育歴を伺うと、患者さん自身が養育環境で人間としての尊重を受けられなかった経過が語られることが多いようです