慢性痛患者との関わりの中にある自殺に至る「心の壁」から学んだこと

笹良剛史 慢性痛患者との関わりの中にある自殺に至る「心の壁」から学んだこと:希死念慮症例における「生きたい気持ち」のサポート ペインクリニック 2014;35(6):805-812

  • 希死念慮自殺念慮を引き止めている気持ち、「何があなたを引き止めているのですか?」という質問をしているが、この質問が「生きたい気持ち」や本人の「大切にしているつながり」への気づきを得ることにもなり、このアセスメント自体がトリートメントにつながる患者ー医療者関係を構築すると感じている
  • コメント 細井昌子
  • 自分の気持ちを口にできないのは、「自分の感情を話題にして口を開いてもいい」という環境が幼少期から現在に至るまでに得られなかったことに起因することがあります。
  • 「内面を語る」ことが自然にできない失感情症(alexithymia)という心理特性
  • ここで重要なのは、「心理的な葛藤を口にする」ということが「無駄なことではない」という認識です。ペインクリニシアンや整形外科医が慢性痛臨床で苦労する理由の一つは、「心理的葛藤や心の迷いを口にすること」が邪魔になる手術室での医療に適応しているために、事務的な情報の伝達だけを無表情で中立的に行うことに慣れすぎているためかもしれません。
  • 慢性痛の心身医療では、そういったクリアに病態を観察する理系的な要素と、患者さんの苦しみを「言語の刺激」でやりとりする文系的な要素の両方が必要です。
  • 最初から心理的につらい話をすることを目標にするよりも、話しやすい趣味の話から話をしてもらうという戦略が一つ考えられます
  • 言葉のアロデニア 通常の人には全く問題のない言葉の刺激が、本人にとっては想像以上の苦痛・苦悩が惹起される現象
  • 完璧主義の患者さんの場合は、本人に、「少しづつではなく完全に治るということが、あなたにとってはとても大切なように思えますか?」などと本人なりの思いを窺い知りやすくなるように問いかけてみることも一つの方法なのかもしれませn
  • 通常の認知のパターンが過去や将来のことばかりに目が行き過ぎて、「今ここ」に注意が集中できない状態が事故傾性の基礎にあった可能性があります
  • このような専門的治療(ACT)の前には、<まずは対処しにくい痛みを抱えることで、否定的な情動が湧き上がることがあり、それが痛みに絡まり「雪だるま状態」で苦しみが大きくなることがありますが、「雪だるまのように」徐々に溶けていくこともある>ことをあらかじめ説明しておくと、治療の関係性が取れるようになりやすいでしょう
  • 非がん性慢性痛の場合には、「死」のイメージを患者さんが口にされた時に、「肉体的な死」よりも「過去の生きざまの死」の必要性を治療者が取り上げて、「新しい生き方の生:新生」を促すことも大切です
  • つまり、愚痴を言えないこと、完璧でないと気がすまないこと、あるいは家族に甘えられないことなどと向き合い、ある程度の障害を当面は受容して、新しい生き方を模索するという本人の主体的な意思を、治療者がサポートするという治療は可能です
  • 治療者が患者さんと一緒に、「今ここの楽しみを感じ創生する」という目標が、自殺予防として、ペインクリニシャンが日々工夫できることかもしれません。
  • 痛みはあっても、楽しみがあれば、人間は生きる希望は失わないと思われるからです