苦しみを悩めない好青年の慢性痛の病理 若年性の麻痺を伴った下肢痛

川井康嗣 苦しみを悩めない好青年の慢性痛の病理 若年性の麻痺を伴った下肢痛の症例経験 ペインクリニック 2014;35(4):521-527

  • 私にとって衝撃だったのは、その患児は心理的になんらかの異常性や社会的な問題が存在していないように見え、すべてに優れた好青年であったことである
  • 症例
  • 特に父親は厳しく、自宅も”学校のようであった”と患児は話していた
  • 患児の症状が発症する直前に、甘えを受容してくれていた祖母が逝去した
  • いじめ問題に関与していた(いじめ被害の同級生を擁護)
  • 心理社会ストレスが関与 転換障害
  • 母親 管理職への道を捨てて、休職手続きを取った上で患児に付き添うことにした。それ以後患児の表情は格段に豊かになり、徐々にではあるが、痛みと関節可動域の改善を認めるようになった
  • このような患児の状態を、チームでは、大きなストレスを抱えているが表現できていない状態と評価し、できるだけ傾聴や共感の態度を持つようにつとめたが、両親とくに父親の過干渉が大きく、それに比べて愛情を十分に享受していないことが問題ではないかと考察した
  • その点では、母親が付き添ったこと、父親が患児の病態に気づき、愛情をかけてくれるように努力してくれたことは非常に大きな改善要因になったと思われる
  • 一過性の依存状態は医療への信頼を築くのに有用かもしれないが、このような症例では、ある程度の適切な距離を保つように医療チームを複数のメンバーで構成し、患者、家庭、学校などのシステムでアプローチすることが重要であると思われた
  • 私は、今製薬業界に所属し、そのことをいろいろな科の医師や社員、同業者、などに話すが、実感をもって”薬が効かない患者”の存在を理解してもらうことは容易ではない
  • 未成年の患児では、親や周囲との対人関係のストレスの一表現型として現れている場合があることを認識すべきであると思われる
  • 小児の慢性疼痛では、患児と両親や祖父母との中で築き上げられた被養育歴に注目する必要があると思われる
  • 一見自由で幸せと思える変化も、実はその過干渉の下での自由さに悩んでいる子どもたちがいるということを感じている。その自由さに愛情やケアなどの保証がないと、非常に悩み多き好青年になるのではないかと推察している。そして、その悩みを表現できるように育てるには、干渉と愛情のバランスを適切にとることが重要であると感じている
  • コメント 細井晶子
  • 周囲に過剰に気を遣い、頼まれると断れず、他の能力が優れているのに比較して自己主張能力が極端に低い症例があり、そのバランスの悪さから、多大な労務の負荷を背負い、心身の疲弊が起こり、結果として慢性痛として表現されていることがあります。
  • なぜ、そのような過活動に至るのか考えてみると、「普通の活動では自分の存在意義がない」と感じているようで、「過剰」がその個人にとって美徳になっているようです。強迫障害とはいえないレベルであっても、慢性痛の難治化で影響を与える強迫的な認知行動特性は、こういった自己肯定感のなさに源流をもつことを多く経験します。
  • 慢性痛の症状が、「人生における苦しみや悩みを気づかせてくれる重要な心理社会的な警告反応である場合もある」という認識を、読者とともに、共有できれば幸いです。