菊地臣一 腰痛、その不思議なるもの 理学療法 magazine 2014;1(1):4-10

  • 近年の腰痛に関する科学の発達は、注目すべきいくつかの謎や不思議の一端を明らかにしました。
  • 一つは、腰痛の発生、増悪・遷延化には私達が認識している以上に早期から解剖(生物)学的因子のみではなく、心理・社会的因子が深く関与しているという事実です。また、腰痛は高齢者に特有な症状でなく、あらゆる年代層に見られるという事実です。さらに、腰痛を訴える患者は近年増加傾向にあり、それに伴って医療費が高騰し続けています
  • 不思議1 ぎっくり腰の原因はわかっているのは
    • 急性腰痛時にはflat backになっている。傍脊柱筋のスパズムは腰椎前弯増強に働くはず
    • したがってぎっくり腰は、傍脊柱筋のスパズムによるものでないことは確か
    • 傍脊柱筋の筋内圧が上昇することによってflat backになるのではないかという仮説
  • 不思議2 椎間板ヘルニアの腫瘤が症状発生の原因か
    • 神経根機能障害(筋力低下や知覚障害)を起こす病態と、痛みを引き起こす病態が同じであるかについてもわかっていない
    • 椎間板ヘルニアの後方突出による機械的圧迫が症状発生の原因である、と単純に割り切れるものではないようです。
    • 椎間板ヘルニアに対する手術の臨床的意義はなんなのかというと、本当のところはまだわからないというのが実情ではないでしょうか
    • 神経根に対して除圧術が適切であると断定できないのは、手術直後の画像で椎間板の後方突出の携帯には術前と比較してもあまり変化が認められないためです
  • 不思議3 腰痛は本当に高齢者特有の症状なのか
    • 加齢とともに腰椎の退行性変化はすすむが、腰痛は必ずしもそれに対応して増えているわけではない。腰椎の変形が即、腰痛に結びついていないということを私達に教えてくれる
  • 不思議4 単純X線画像で認められる不安定性は本当に異常なのか
    • X線学的不安定性がどのように、あるいはどの程度症状に関係しているかについては、本当のところはわかっていないというのが正確だと思います
    • 前屈ですべりは増強。しかしこの姿勢で神経根や馬尾の症状は消失する。良好な脊椎配列である中間位や伸展位では、かえって症状は悪化。脊柱の不良な配列が下肢症状出現や増悪に直接的に影響しているなら、前屈のときの異常な脊柱配列時には症状は悪くなっているはず。しかし事実は逆です。手術の時には脊柱を良い位置、なわち中間位で固定しますが、その位置では患者の症状は悪化します。誰も症状の取れる前屈位で、すなわち不良な肢位では固定しません。つまり、良好な脊椎の配列を整えるということは、少なくとも症状を治すための手段ではないのです。
  • 腰椎の不安定性に対して固定術を施行するのはきわめて妥当なことですが、だからといってその腰椎の不安定性が即、症状に関係があるとして、その事実の持つ意義や病態を考えることを放棄するのは患者にとっても医学にとっても不幸なことです。
  • 不思議5 急性腰椎の治療として安静は有効な手段なのか
    • 腰痛の治療には、結果としての安静は別にして、治療としての安静は選択肢にありません。つまり動ければ動いてよいのです。