運動器慢性痛診療の手引

  • 運動器慢性痛診療の手引 日本整形外科学会 運動器疼痛対策委員会 編集 (非売品)
  • p2 運動器における痛みとその対応
    • 国際疼痛学会 痛みとは、実質的または潜在的な組織損傷に結びつく、あるいはこのような損傷を表す言葉を使って述べられる不快な感覚・情動体験
    • 慢性の痛みにおいては、痛みそのものよりも痛み行動を改善させることを目標に治療戦略を進める必要がある
    • 画像診断的評価 偽陽性が多い。画像のみを根拠にした診断や治療は慎むべきであり、あくまで神経学的所見などを分析していくためのサポートツールという位置づけとしておく必要がある
    • 精神心理的要素 オペラント条件付けに基づく疾病利得の問題、医療や社会などへのうらみが関与するもの、認知異常、発達障害、パーソナリティ障害、kinesiophobia、うつ病破局化思考パターン
    • 完全に元通りにしてもらわないと納得できない等の感情は、しばしば現状の医療(医療者)・社会などへの不信や不満につながっており、難治性の要因になっていると考えられる
    • ゴール設定と治療方針 特に慢性痛のゴール設定にあたっては、単に痛みを取り除くという観点にこだわらず、社会の中で患者の居場所を作ることを主眼に進める必要がある。
    • 多くの慢性痛では完全に痛みを消失し得ないことが多く、むしろ痛みがあってもそこにこだわらず、生きがいのある生活を送ることができるのがもっとも重要な目標の一つと考えられる
    • 運動療法やその他の保存療法 運動器は動かしていくことで機能の維持を図ることが重要である。したがって、痛い時には安静にしていれば改善するという“急性痛”的な考え方は、慢性痛ではむしろ症状の増悪因子になる
    • 自ら“再び痛みがでると困るという恐怖のために動かない”というkinesiophobiaという疾患概念がある。これらについては、その背景にある精神心理的な問題も考慮しつつ、動くことが有する意味・意義について教育しつつ、動くことへの自信が回復するように実践させていく必要があるものと考えられる
  • p26 慢性痛の治療においてもっとも大事なことは、痛みの大きさではなく、痛みを不快に感じる大きさである。
  • 痛みには、「治る痛み」「治せる痛み」「治らない痛み」「治れない痛み」がある。すなわち純粋に医療者側の努力だけでは、どうにもならない痛みもあるのである。それだけに医療者は患者の痛みに共感し、痛みに連帯していく姿勢が大切になる
  • p28 failed back には、心理・社会的問題が深く関与し、従来の治療概念はこれらの点に対する配慮が不十分であった
  • 治療のゴール設定を従来の“痛みの消失”にせず、QOLを重視し、患者自身が痛みを自己管理し、生活機能を回復し、通常の生活を送れるようにすることをゴールとして設定する
  • 痛みの慢性化の機序
    • 準備要因 人格行動特徴、ストレス対処行動、周囲からの痛み行動の学習の有無
    • 誘発要因 疼痛を引き起こした経緯、当時のストレッサーの有無、そのときの心理状態
    • その後のサポート体制、医療機関とのかかわり方、疾病利得の有無
  • p141
    • 線維筋痛症ガイドライン2011 行政上、司法上の正確な判断を求められる際に、おもな症状が自覚的なもので他覚的なものが乏しい状況で医師としては不確定な判断を示すことは適切ではないと考えられる。
  • 痛みだけの障害については専門領域を異にする複数の専門医での合議による判定が必要であると多科目連携治療アプローチを必須条件としている