半場道子 機能的脳画像からみた慢性疼痛 ペインクリニック 34(8);1100-1109

  • 痛みの要素
    • 感覚・弁別感 sensory/discriminative
    • 情動・動機的 affective/motivational
    • 認知・評価的 cognitive/evalative
  • 慢性腰痛における侵害受容は健常者とかわらない
  • 慢性腰痛では、offset時の賦活部位が健常者と大きく異なる
    • 健常者の場合は、熱刺激offsetの側坐核の活動に伴い、認知、行動企図、感情、意欲、評価付けなど多機能に跨る回路網が賦活し、dopamine systemも下行性痛覚抑制系も活発に機能している。したがって、被験者が熱刺激のoff-set時に自発痛を訴えることはない
    • 慢性腰痛では、熱刺激のoffset時に側坐核のBOLD信号は減弱し、被験者は自発痛を訴える。側坐核活動をseedとしてROI解析すると、mPFC,Amyの活動と関連しており、被験者が自発痛を強く訴える時、mPFC-NAc間の結合が大きいとわかった。注目されるのは、sensory/discriminative系に賦活がないにもかかわらず自発痛を訴え、自発痛が強いほどmPFC-NAcの機能的結合が大きい点である
  • 慢性腰痛では自発痛に一致して、側坐核前頭皮質、前帯状皮質の活動がみられる
  • CRPSでは、脳灰白質密度の減少や異常な神経分布が起きている
    • CRPSにおける血流や発汗の異常、浮腫、皮膚の栄養障害などは、AIC灰白質萎縮や異常な神経分枝に関係し、decision-making機能の低下はvmPFCの萎縮に、運動障害は前頭皮質から大脳基底核への神経連絡の減少にそれぞれ関係するものと考えられる
    • 慢性疼痛患者の脳で何が起きているか、第2項を通して見えてきたのは、発端の侵襲から月・年を経過する間に、意思決定、行動企画、情動、動機付け、感情、意欲などにかかわる広範な神経回路網を巻き込んだ機能低下と、灰白質異常、異常な神経分枝など、変容した脳構造であった。強い侵害性入力が繰り返し加わると、脊髄後角や延髄では、海馬における記憶のメカニズムにも似て、長期増強現象が起きる。脊髄後角や延髄におけるLTPは上位脳に波及し、NAcの活動性を変化させ、mPFCを含めた神経回路網に影響を与えたと示唆されるが、neuron levelの詳細機序はいまだ明らかでない。いずれにせよ、ひとたび変容した脳構造を健常機能に回復させるのは難しい。
  • 慢性化の予測は可能か?
    • Apkarian 慢性化の予測因子として、初回時の全脳スキャンmPFC-NAc間の機能的結合の大きさ、sf-MPQのaffective高値を挙げている
    • NAc activityの低下は、痛みの慢性化のkey componentであり、うつ状態睡眠障害の機序とも関連する。慢性化を予測する指標としてNAc activityと報酬回路に焦点が絞られてきた意義は大きい
  • 終わりに 慢性疼痛への転化を避けるために、現時点での神経科学からの願い
    • 痛みはできるだけ早期に末梢組織レベルで遮断し、上位脳に過剰な侵害性入力を投射させない。脳の可塑性は大きく、強い侵害性入力の反復は、多くの神経核に異常な興奮を波及させる。炎症性/神経障害性疼痛の治療薬、神経ブロックなどの治療法は、慢性化を回避するため早期に使用する
    • 痛み治療に際しては、「脳で何が起きているか」の理解に基づくアプローチが望まれる。痛みの源が末梢組織に同定できなくとも、報酬回路や鎮痛機構に機能低下があれば「痛い」のである
    • 医師の言葉や態度は患者の脳活動に与える影響が大きい。訴えを聴き、安心さえ、快の情動を高める助言をする