笠原諭 慢性疼痛に対する心理的評価と認知行動療法 臨床精神医学 2013;42(6):739-748

  • 慢性疼痛の患者は概して、心理的葛藤に対して否認・抑圧・身体化の防衛機制を用い、医師的・無意識的に心理的な悩みを隠そうとする傾向もあり、問診による情報だけでは病態の正確な評価は困難である
  • 患者や家族に対して「あなたの家族のやりとりに問題がある」と直面化するだけでは治療関係を破綻させるだけである
  • 慢性疼痛は、心因と性格要因の相互作用によって生じるものと言い換えることができる
  • 多くの慢性疼痛患者は、その症状の背後に無意識的に心因を隠している(抑圧している)。それは欲や情などの”人間臭さ”を含んでおり、話を一通り聞いて推定できるものは、病態に深く関わる心因ではないと考えた方がいい
  • 厳密にいえば、心因が除去され、その結果として痛みが消失したとき、結果的にそれが心因だったとわかることも多く、当初から簡単に同定できるものではない
  • 慢性疼痛におけるCBTの鍵となる構成要素
    • 痛みの基礎知識を教育すること
    • 活動レベルと高めること
    • 過活動を管理すること
    • 疼痛に対する破局視と恐怖の回避を低下させること
    • ストレスに対する対処スキルを高めること
    • 怒りを管理すること
  • 痛みに対する教育
    • 怪我などをした場合、組織が損傷されたという信号は末梢神経から脊髄を通って、脳に到達します。その信号が脳で痛みという感覚に作り替えられます。その際に、脳は脊髄の背側角に下行性疼痛抑制系という神経を伸ばし、ゲートを開けたり閉じたりして脳に到達する組織損傷の信号を調節しています。抑うつや不安、怒りなどの否定的な感情はゲートを開き、より多くの痛み情報が通じるようになり、前向きな感情はゲートを閉じて痛み情報を制限します。そして、楽しい活動を増やすことでゲートを閉め、脳にいく情報を減らすことができます。
  • 一般的に慢性疼痛患者には完全主義的傾向をもつものが多く、”全部を、一気に、徹底して”達成しようと、非現実的な目標を掲げて過活動となり、痛みの悪化の兆候を無視して「やり通そう」とする。その結果、痛みを悪化させ、動けるようになるまで休養を延長しなければならなくなり、また動けるようになっても「無駄にした時間を取り戻そう」とさらに一生懸命物事にとりくむことになる
  • このような完全主義的な患者は、物事を成功か失敗かで評価し、失敗を過大に評価し、達成したことは無視する傾向がみられる
  • 活動に厳格な時間制限を設定し、時間で活動を区切って無理のない段階で終わらせるようにする。そうすることで、徹底的にやりすぎて破綻よりも、適度な段階で区切って休みを入れる方が、より生産性が向上することを学習できる
  • MMPIの所見を参考として、うつ傾向(D尺度高値)には、「いやな気分よ、さようなら」、不安傾向(Pt尺度高値)には「フィーリンググッドハンドブック」、社交不安傾向(Si尺度、社会的不適応(SOC)尺度高値)には「不安障害の認知行動療法(2)社会恐怖患者さん向けマニュアル」、自己評価の低い傾向(意気消沈(MOR)尺度高値)や、SCTに記述された文章に虐待経験などがあり、認知的概念化による中核信念への介入が重要と考えられる場合には「自信をもてないあなたへ」を勧めている
  • 治療者がセルフヘルプ用の書籍を適切に導入できるということは、”患者が、お抱えの優れたカウンセラーを雇う”ようなものであるともいえる。一般臨床家が書籍(カウンセラー)を使いこなせるようになれば、読書療法は有効なオプションの一つになりうる
  • アサーショントレーニングを用いたアプローチ
  • マインドフルネスを用いたアプローチ
    • 「痛い、だから何もできない」と感覚情報が破局的な思い込みにダイレクトにつながったモードから、「痛い」「あ、今、”だから何もできない”って考えたな」と入力情報をバッファーに保留するモードの切り替わるのである。そうすることで、破局的な思考へと直結せずに距離を取ることができ、その他の豊富にある肯定的な情報「あれもできる。これもできる」にもアクセスが可能となり、思い込み自体も軽減していくものと考えられる
    • マインドフルネスストレス低減法