生理学的痛みの末梢機構

國本雅也 生理学的痛みの末梢機構 Brain and Nerve 2012;64(110:1205-1214

  • IASP痛みの定義の注釈
    • 痛みはいつも主観的である。各個人は、障害の早い時期の損傷に関連した経験を通じて、この言葉をどんなふうに使うかを学習している。生物学者は、痛みを惹起する刺激は組織を損傷しやすいと認識している。したがって、痛みは実質的あるいは潜在的な組織損傷をむすびついた体験である。痛みは身体の一カ所あるいは複数箇所の感覚であることは確かであるが、”痛みはいつも不快”であるので、痛みは情動体験でもある。痛みに似ているが不快でない体験、例えばチクチクした感じは、痛みと呼ぶべきではない。不快な異常体験(異常感覚)も痛みかもしれないが、必ずしもそうとは言い切れない。なぜなら、主観的にみると、それらが痛みの通常の感覚特性を持たないかもしれないからである。多くの人々は、組織損傷あるいは、それに相応した病理生理学的原因がないのに痛みがあるという。普通、これは心理学的な理由でおこる。主観的な報告から、このような経験と組織損傷による経験とを通常区別できるものではない。もし彼らが、自分の体験を痛みだと思い、組織損傷によって生じる痛みと同じように報告するならば、それを痛みと受け入れるべきである。この定義は、痛みを刺激に結びつけることを避けている。侵害刺激によって、侵害受容器および侵害受容経路に引き起こされる活動が痛みであるのではなく、痛みはたいていの場合主因が身体にあることを受け入れるにしても、痛みはいつも心理的な状態である
  • IASPの定義には2つのポイントがあるという。一つは、痛みは感覚であるとともに情動であるということで、「不快」という語が示すように感覚が引き起こす情動体験を含めて痛みとしている点である。2つ目は痛いの体験には脳に刻み込まれた心象でもあり、組織損傷が具体的には存在しないのに痛みを感じることがあり、それは組織損傷を体験した時に沸き起こる意識内容と自分でも区別ができないことがあるという点である