- 心療内科および心身医学を標榜する医師にとって、慢性疼痛治療に苦手意識を実感する理由
- 慢性疼痛患者に限らず、心身症症例では行動の自律的制御が困難である。
- これらの制御困難な行動の背景には、外界からの刺激がなくなった時に押し寄せてくる否定的情動体験の嵐があり、その否定的情動を体験するのがあまりに辛いために、過去の人生体験のなかで報酬を得られたことがある独特な行動パターンが起こり、病的のp成り立ちからは不適応行動となって駆り立てられていると考えると、理解しやすくなることがある
- 九州大学病院心療内科に入院を要した症例で、入院後の行動分析で問題となることが多いのが、全身各所の痛みを多数訴えているのにもかかわらず、安静時感に病院内を動きまわるという過活動がある
- その行動の動機をじっくりと聞いてみると、「じっとしていると落ち着かない」「何か前向きなことをしていないといけない」などの表現をされることが多い(強迫性)
- これらの度を超えた強迫性の背景をさらに聞いてみると、「イライラ、不安、抑うつ感、休んではいけないという考え、ストレス状況でも愚痴をいってはいけないという考え」を語られることがおおい。いわゆる「気晴らし」として、自分の蓄積された否定的感情であり「嫌気」が晴れるような行動を行なっているわけである。
- 入院が必要となるような日常生活での困難を感じている症例では、相当の抑圧感情を抱えておられることも多く、「晴らすべき」否定的感情があるものの、その嫌悪感情を適切な形で表現したり、発散したり出来ないことが多い。
- 心身症としての重症度は、その嫌悪感情を意識化あるいは言語化出来ない程度の強さであり失感情症の感情動的の困難の強さや自己主張能力の低さによると考えられる
- 臨床の知として、心身医学の専門家が意識化して良いことは、慢性疼痛症例では、その心のもやもや感を、筋肉や脳を休ませることなく何かをし続けるという過活動で晴らしている結果として、筋収縮の持続による機能的痛みが生成され、脳疲労による抑うつが合併し、難治化しているということである
- そのような日常の行動を丁寧に聴取していきながら、その背景の否定的感情を傾聴することで、身体症状の訴えに固執しやすい慢性疼痛症例を、心理的因子を語っていただく流れに話を進めていくことが可能となる
- 不快な痛み持続状況で何が起こっているかを積極的に傾聴していくと、過去のトラウマ的な体験が自発的に想起されていることを語られることがある
- PTSDの症例で症状の一つとされる、強度の不安が惹起される「フラッシュバック」現象の小規模のものが頻回におこる「プチフラッシュバック現象」というものがあると考えると、制御困難の過活動の心身医学的メカニズムを理解するのに役立つを考えられる
- この現象を例えると、コンピュータのスクリーセイバーのように、10分とか30分とかの待機時間で過去の最も嫌な体験としている画像が、「走馬灯のように」出てくるシステムが脳に備わっているかのようである
- スクリーセイバーは、パソコンで何か操作をはじめると止まるシステムであるため、過活動が制御しにくい症例でも、このみたくない辛い感情体験をかき消すのに、休息を入れないで家事などの掃除を行い続けること(集中、運動)が、気晴らしとして役に立つという報酬になって、過活動が持続するシステムが成立しているように見受けられる
- いわゆるうつ病では、朝起床時に気分がすぐれないことが多いが、過活動で痛みが悪化するタイプでは朝比較的調子がよく夕方以降に症状が悪化することが多いようである
- 感情抑圧・抑制して自己主張ができないために起こっている蓄積している否定的感情に加えて、行動としての過活動で周囲が「元気である」と患者を理解し、家族や職場などで病状に合わない要求を患者が受けることで「自身の苦痛をわかってもらっていない」という交流不全を生み出していく。そのなかで、自身の症状や気持ちを守れないことによる心理的苦悩が増大していく。その増大した苦悩を抑圧し、さらに過活動が持続増悪するという悪循環が形成されていくことも多い
- 養育環境なを準備因子とした心理的苦悩が過活動を通して身体的苦痛を呼び込み、過活動から生み出される誤解が社会的苦痛を呼び込んでしまい、心理的苦悩・身体的苦痛・社会的苦痛の三拍子そろった難治化した慢性疼痛が生じてしまうことを臨床の知として理解しておくと有用である