滋賀医科大学医学部附属病院ペインクリニック科

福井聖 滋賀医科大学医学部附属病院ペインクリニック科 Practice of Pain Management 2012;3(4):252-266

  • 日々、難治化した慢性疼痛患者さんの診察をしていると、画像のみで診断を下さず、痛みをもった人間として患者さんを診察することの大切さを感じます
  • 線維筋痛症に代表されるような、脳の不快情動処理系の機能が低下し、痛みの抑制系の機能が落ちている難治性疼痛も増えています。
  • 発達障害の診断がされないまま成人になって、疼痛性障害、慢性疼痛として受診される患者さんなど、精神科や心療内科の先生にコンサルトする必要がある患者さんも増加傾向にあります。
  • 患者さんには、医療不信や医療者への怒り、うつ、不安や睡眠障害を抱える方が多く、破局的思考に囚われた患者さんが非常に多いです。
  • 患者さんの話を聞いてみると、家庭内ではドメスティックバイオレンスや生育期に虐待を受けた経験、家庭外では会社でのストレスなどが慢性疼痛の大きな原因になっていることがよくあります。
  • 脳機能画像でも、一般に都市の生活者の方が扁桃体や前帯状回といった不快情動処理系の働きが悪く、痛みの抑制系が働きにくいため、痛みやストレスに弱いことがわかっています。
  • 来院される慢性疼痛患者さんは、医師に治してもらうという受け身の考えをもっていらっしゃる方がほとんどなので、患者さん自身でQOLを上げていくリハビリテーションは非常に重要です。「慢性疼痛は医師が治すのでなく、患者さん自身が直していくものであり、薬物療法、神経ブロック療法もそのお手伝いをするものである」と繰り返し伝えるとことで、疼痛治療に対する患者さんの考え方を変えることができます。
  • 私が診療を担当したCRPS患者さんで複雑な家族関係、生育歴により当科で対処できないような背景をもった方がいらっしゃいました。中井吉英先生(心療内科)に紹介、そこで半年間治療した結果、怒り、敵意、うつ、不安が改善し、仮面顔貌がなくなり、別人のようになってあいさつにこられたのは印象的な体験でした
  • ある慢性腰痛患者さんでは、発達障害で慢性疼痛を有する家族があり、家族関係のストレスが慢性疼痛の原因である可能性が考えられました。大阪の発達障害心理療法センターに紹介して家族療法を実施したところ、家族関係が良好になり、本人の慢性疼痛も改善したという例も経験しています。