松平浩 慢性腰痛のリハビリテーション Jpn J Rehabil Med 47(5);282-289;2010

  • 従来腰痛は外傷性事象や機械的ストレスが原因で起こる損傷モデルが前提であった。しかしながらこのモデルで説明しきることには限界があり、心理社会的要因の関与が重要視されるようになった
  • 最近、重篤な基礎疾患のない非特異的腰痛に画像検査をおこなっても臨床転帰は改善しないことがメタ解析で明らかとなり、ついつい変性、ヘルニア、すべりなどの画像所見があたかも腰痛と関連が強い印象を患者に与えてしまいがちな医療スタイルに警鐘を鳴らしている
  • 日常漠然と行われがちな温熱/冷却、牽引、レーザー、超音波、短波、干渉波、経皮的電気神経刺激(TENS)、マッサージ、コルセットなどの受動的治療に関しては、その有用性が示されているとは言えないことから推奨されていない。
  • fear-avoidance modelにおける悪循環から脱するためにも、このような誤った認識への対応も欠かせない。非特異的腰痛は、誰もが経験しうる最も頻度の高い愁訴であること、そして提示した適切な運動と姿勢を実践していれば、腰痛に対する恐れを捨て、できるだけ活動的であるほうが望ましいことを宣言する。
  • もし、過去に宣告された画像診断での病名への執着が強ければ、画像診断と腰痛は強い関連がない事実を伝え、その執着を取り除く。
  • 姿勢や動作との関連がはっきりしない、つまり非合理な痛みは、心理社会的要因の方が強いと考えたほうがよい。狭義の心因性腰痛である。背景にある心理社会的要因としては、職場や家庭での人間関係の破綻、待遇への不満、解雇や退職、小児期に虐待された経験を代表とする心的外傷、発症機転において被害者意識が高いこと、労災・自賠責を代表とする補償の問題などがあげられる
  • 医学専門用語を多用する、それまで植え付けられた画像診断に対する執着や発症機転に対するこだわりが強いことをうかがわせる患者はこのタイプであるkとが多い
  • 原因がわからないといわれ続けた患者にとっては、診断名を提示し、共感してあげるだけで救いとなることもある
  • 治療者に対する他者依存の考えを捨てかつ痛みと戦うことをやめ、そして痛みを受け入れ共存しつつ小さなことで良いから達成感を味あわせ活動性およびQOLを上げていくことを根気よく促す作業が必要である
  • なかには腰痛が治ってはいけない患者もいる。労働災害、交通事故後などにおける治療費の補償が絡んでいる。各人の業務や活動を減らしたり休みたいための理由付け、また孤独なため家族や医師などから関心を得たいため(オペラント学習型)などがあげられる
  • なかには治そうとせず誰かがただ話しをきいて見守り続けるしかない患者も存在することも知っておく必要がある