水野泰行 痛みと心理 治癒から変化へのパラダイムシフト Practice of Pain Management 2012;3(2):138-139

  • 痛みを訴える患者さんの治療では、まず「信頼関係の構築」が不可欠であり、患者さんが自分で治療をしていくのをサポートする姿勢が大切である。そこで重視して欲しいのが、「変化」という視点である。医師が患者さんを変えていくのではなく、患者さん自身が自分で変化する方法を一緒に話しあったり、サポートしたりするのが治療者の役割ではないかと考えている
  • 痛みを抱える患者さんとの信頼関係を構築するには、やはりまず患者さんの話を聞くことが重要となる
  • 医療コミュニケーションにおいて「共感」ということばがよく用いられるが、共感とは患者さんと一緒に怒ったり、悲しんだりすることではない。「患者さんがそう考えたり、感じたりすることは理解可能なことだ」という医療者側の認識を言葉や態度で表現することにほかならない。
  • 「痛みがなくならないのは、手術が失敗したからではないか」と訴える患者さんに、「いいえ、手術は成功しています」といった場合、事実としては正しいかもしれないが、共感を示しているとはいえない。「失敗したのではないかと思うほどうらい痛みなのですね」と、失敗か成功かという事実について争うのではなく、患者さんの感情の部分に焦点を当て、その辛さを認めるということが、「共感」だと考える
  • 痛みへの対処法copingには、「疾病志向型対処」と「健康志向型対処」にわけられ、健康志向型対処に変化していくと痛みが軽減すると考えられている
  • 慢性疼痛患者さんは疾病志向型対処をとることが多く、それを変えることが難しい。「痛みをもった自分」をみとめられず、「今の自分は本来の自分ではない」「痛みのない状態になりたい」ということばかり考えがちである。
  • 自分自身の『今」を受け入れられないため、痛みをもった「今」と、改善した「未来」との間の過程がイメージできない
  • こうした認知過程を説明するのに、「破局化」という認知的特徴がある
  • これは「無力感」「拡大視」「反芻」の3つの概念からなる
  • 破局化が強い人は見軍の対処能力を過小評価している
  • 拡大視が強いと、自分の痛みによる悪影響を非常に大きなものと感じてしまう
    • 痛みで何も出来ない」といいながら化粧をしっかりしているなどという患者さんもいるが、嘘をついているのではなく、できることを本人が正しく評価できていないのである
  • 反芻が強いと四六時中痛みのことが頭にあるため、生活に占める痛みの割合が大きくなる
  • 大切なのは、患者さんの認識が変化すれば、痛みにも変化が現れることを患者さんに納得してもらうことである。
  • 変化へのモチベーションには、「このままの状態ではよくない」「変わったら、なにか良いことがある」「という重要性の認識、「これならできそうだ」という自信、そして「いつか」でなく「今すぐ」という優先順位をつけることができる、という3つの要素が最低限必要だといわれている。
  • 痛みの治療においては、納得していない患者さんに治療方針を無理矢理押し付けるのでなく、十分な信頼関係を築いた上で、医者が「治す」から、患者さん自信が「変化する」へと視点を変え、そのへんかのステージに応じて治療のアプローチをかえていくことが重要である。