住谷昌彦、山田芳嗣 神経障害性疼痛の治療 麻酔科学レクチャー  2010;2(4):741-749

  • 神経障害性疼痛の定義 体性感覚系に対する損傷や疾患によって直接的に引き起こされる疼痛 pain arising as a direct consequence of a lesion or disease affecting the somatosensory system
  • 神経障害性疼痛の治療目標
    • 神経障害性疼痛では、神経障害を核として神経障害性疼痛が発症し、そしてその認知を修飾する「疼痛に対する破局的思考(痛みのことを頻回に考える、痛みを過剰に大きな存在と考える、痛みから逃れないと考えるなど)」や痛みによる不眠、痛みに対する恐怖と不安が続きます。さらに、これから抑うつ症状やADLの低下,QOLの低下を引き起こします。これらは相乗作用的に悪影響を及ぼしあい、神経障害性疼痛の悪循環を形成します。
  • このように疼痛の認知は、情動面や過去の経験など多様な要因が影響を及ぼすので、治療対象としては、神経障害性疼痛だけでなく身体行動の制限(ADLの低下、睡眠障害)や情動面の障害(抑うつ、不安、怒り感情、自己身体に対する自身の喪失)、社会経済的活動の障害(家族や友人などとの関係性の障害、社会的孤立、医療福祉サービスを受ける費用の損失、休職など)が含まれます。神経障害性疼痛を代表とする病的疼痛の治療の際には、疼痛の訴えだけでなくこれらを治療の対象とすることもわすれてはなりません
  • 神経障害性疼痛に対する神経刺激療法
    • 脊髄刺激療法(SCS:spinal cord stimulation)のほか、脳深部刺激療法(DBS:deep brain stimulation)と大脳運動野刺激療法(MCS:motor cortex stimulation)が行われています。
    • 侵襲的な治療法なので無作為化比較試験を行いにくいという背景から、エビデンスとしては確立されていませんが、その有用性は広く認められ、難治性疼痛患者のQOL改善だけでなく、医療費削減や社会経済的損失の減少に対する効果もmeta-analysisによって明らかになっています。
  • 神経障害性疼痛に対する心理療法認知行動療法)について
    • 痛みは体性感覚的体験と情動体験が常に組み合わさった身体体験であり、この二者を区別することはできません。しかし、患者は痛みの情動的要素を理解していないことが多く、ときには情動的要素と関連した診療内容に対して、否定的な態度を示すことがあります。これに対して、医療者は痛みの感覚的(身体的)要素と情動的要素が常に併存することを理解し、それを患者に教育しなければなりません。