変形性膝関節症の疼痛発生機序

池内昌彦 変形性膝関節症の疼痛発生機序 Bone Joint Nerve 2012;2(2):317-323

  • 本邦 レ線で変形性膝関節症と診断されるものが2530万人、うち症状を有するものが780万人
  • 診断が関節構成体の病理学的変化をもとに行われるのに対して、治療は関節の病理と直接的に関係しない“痛み”を対象とすることが多いため、多きな解離が生じるとかんがえられる
  • 膝OAは基本的に侵害受容性疼痛である。
  • 末梢からの侵害刺激の持続的入力により脊髄後角ニューロンさらに脊髄より上位の中枢神経系にも可塑的変化(中枢感作)がおこり、痛みがより複雑になっていく。
  • 慢性痛を呈することが多い膝OAでは、心理社会的な要素がさまざまな程度に痛みを修飾しており、痛みの病態を考える上で無視することはできない
  • 膝OAの関節痛とは、広義には筋や関節包などの関節近傍組織を含めた痛みであr,狭義には関節内組織に起因する痛みである
  • 人工膝関節手術を予定している重症型の膝OAの痛みは、主に狭義の関節内由来の痛みと考えれたが、その頻度は60-70%にとどまっていた
  • 関節内組織
    • 軟骨
      • 硝子軟骨は血管、神経、リンパ管を欠くため軟骨事態が疼痛源になることはない。軟骨分解産物により神経終末を含有する軟骨周囲組織に炎症を引き起こして、疼痛源になりうる。軟骨の変性・摩耗により続発する軟骨周囲組織(主に滑膜)への生体力学的ストレスと炎症により軟骨由来の痛みが生じる
    • 半月板
    • 滑膜
    • 膝蓋下脂肪体
    • 靭帯、関節包
  • 神経系
    • 末梢神経系 
      • 侵害刺激は伝導路である神経系の変化によって何倍にも増幅されることがある。
      • 膝OAの関節痛の治療においては、神経ペプチドを有する痛覚神経をターゲットにした新しい治療法が理にかなっている
      • 人工関節置換術待機期間中の患者40名に、アンケート形式で神経障害性疼痛のスクリーニングを行ったところ、6名(15%)の神経障害性疼痛の要素が大きいと思われる患者が存在した
      • 露出した末梢神経が直接損傷されて神経障害性疼痛を発症するメカニズムが考えられる
    • 中枢神経系
      • OA膝の痛みは末梢組織の侵害刺激がメインであるが、中枢神経系の関与を示すエビデンスが確立しつつある
      • 膝OAの痛みと脳の関連に関しては不明な点が多い。最近fMRIを用いた研究においては、膝OA患者の自発痛と圧痛の脳活動部位が異なっており、自発痛は情動と関連する部位に脳活動が見られる。慢性腰痛においても同様の活動がみられ、情動の関与が見られるが、膝OAにおいても情動、心理状態と密接に関連した痛みがあることが示唆される。安静時痛や夜間痛に対しては心理的側面も含めて治療手段を講じる必要があるかもしれない。