河田浩、細井昌子 慢性疼痛と心のケア Bone Joint Nerve 2012;2(2):309-315

  • まずは患者―医師間の信頼関係が最も重要である。そのうえで、患者に寄り添い、できうる範囲でゆっくり傾聴する態度が必要であろう
  • 実際に痛みを感じているのに、それに見合うだけの器質的な疾患をみとめないために病気と認められず、心理的な辛さが表出できないために、痛み症状だけ繰り返し訴え続けられている場合がある。前述のように心理的背景が厳しい症例では、家庭に「居場所がない」ことが多く、医療でも「居場所がない」ことで不信感を表明してくることがある
  • 居場所がない辛さを傾聴することによって、今すぐには痛みの症状はとれなくても、目の前の医師あるいは心のケアを専門とする医療者に守られていることを伝えることが重要である
  • すべての心理療法の基本である受容・共感・保証などの支持的要素を、日常の医療面接に取り込む対策が考えられる
  • 怒りを表す患者をどう理解するか
    • 多くの慢性疼痛の患者が、通常では反応しないような内容に対して怒りや不満を感じ、「八つ当たり的に」感情を表出する。当科で過度に起こっている人の背景を調べる中で理解されてきたことは、医療者を責めているという表現系の中で、過去の擁護的な立場の人たちへの感情を医療者の投影している場合があるということである。感情のコントロールを失っている時は、話を聴くことを中断したほうが良い時もある
    • 患者の怒りに対して、すぐ非難や否定をせず、(理屈は理解できなくても)その過度の不快情動に振り回され困っている事態を、まずは受け止めることが重要である。怒りを受け止めた「認証の態度」の後に、具体的に困っていることを聴くと、関係性が一転し、医療者も楽になることがある
  • 心理教育的アプローチは患者だけでなく、家族にも行うべきであり、家族の「本当に痛いのか?」という不信感を取り除くだけでも、家族内の交流不全が減少し、患者の不安が軽減することがある
  • 最後に、大変重要なことであるが、心のケアを目指す医療者側も、体調を整え健康管理に注意する必要がある。患者の不快情動に真摯に対応する中で、治療者も疲弊し、燃え尽き、文字通り痛んでしまう場合がある。そういう意味でも、治療者自身も感情の変化に気をつけ、休憩や気晴らしを十分に取り、心のケアを行う必要がある。慢性疼痛患者の、時に理不尽な不快情動に対応する苦しさを、同僚と共有し発散することも大切である。
  • 慢性疼痛とは、誰でも同じ立場になれば起こりうる反応であり、理解可能な病態であるが、生育歴を含めたうえで治療者が無理なことまで引き受けて、出来ない約束はしないことである。患者の不快情動に巻き込まれ過ぎないように一定の距離を保つこと、入院を要するような重症患者にチーム医療を行うこと等が必要である。