松原貴子 痛みを伴う歩行の見方と理学療法 奈良勲編:歩行を診るーそこからの理学療法実践の展開 文光堂 2010 p331-339

  • 痛みは決して時間的経過によって分類・定義されるものではない
  • 急性痛は侵害刺激に対し痛覚系が正常に機能して発生する痛みであり、生体にとってきわめて重要な警告信号であるとともに、生命を維持するために必要不可欠な機能である
  • 慢性痛は痛覚系に異常を呈した結果生じる痛みであり、組織損傷など明確な原因が必ずしも存在しない状況でも生じる
  • 慢性痛は末梢ならびに中枢神経系の感作や可塑的変化によって引き起こされることが明らかになってきた
  • 痛みを体験した対象者はcatastrophizing(破局的・消極的思考)による恐怖・不安をいだき行動回避することでさらに痛みを増悪・慢性化させていく“痛みの悪循環”に陥っている場合が多い
  • 痛み関連脳領域”pain matrix”では、痛みは一感覚のみならず、情動や認知としての情報処理をされている。したがって、痛み感覚や痛みの原因探しに終始するだけでは、対象者の全体像を見誤る可能性がある
  • yellow flagとは痛みの発症、再発、慢性化に関与する危険因子で、そのほとんどが心理社会的な因子である
  • 痛み、特に難治性の慢性痛患者の障害像の特徴として、1)痛み、2)ADL・活動性の低下3)catastrophizing(破局的・消極的思考)4)社会的立場の喪失、生産性・役割の減少があげられ、これらが評価ポイントのコアとなる
  • time up and go:TUG test
    • 椅子からの立ち上がり、3m歩行、方向転換ののち、椅子に戻り着座するまでの時間を計測するパフォーマンステスト。動的バランス評価、信頼性・妥当性が高い。10秒以内が正常
  • 慢性痛リハのポイント セルフマネジメントは慢性痛リハのコアとなる
    • 歩行などの軽運動によるセルフケア
    • 活動量のセルフアセスメント
    • 痛みー行動パターンのセルフマネジメント の3項目に、セラピストによる管理・フォローアップ(supervised exercise with therapist follow-up)が必須である
  • 痛みを有する対象者の歩行障害は痛みそのものよりも、対象者が抱える身体的・心理的・社会的な機能障害に起因する場合が多い。医療は、生物医学モデルから生物心理社会的モデルへとパラダイムシフトしている。痛みを有する者が抱える多面的な障害像を理解した上で、個々の痛み患者に見合った包括的な理学療法アプローチを展開する必要がある