松平浩 知っておきたい腰痛の知識 第一回 季刊ろうさい 2010 春号 vol5 24-31

  • ほねのずれ(すべり)やヘルニアなどの画像上の異常所見があっても、腰痛で困っていないひとはいますし、逆に、腰痛の経験があっても画像所見は正常な場合もあります。すまり、画像上の異常所見は必ずしも痛みを説明できないことが理由の一つです。よって、今や「変形性腰椎症」「腰椎椎間板症」などといった画像診断を重視した病名は、臨床的な診断名としては使われなくなりつつあります。
  • 昨年、重篤な基礎疾患のない非特異的な腰痛の患者に画像検査を行っても臨床的な転記は改善しないことをメタ解析で明らかにし、ついつい変性、ヘルニア、すべりなどの画像所見があたかも腰痛と関連が強い印象を与えてしまいがちな医療スタイルに警鐘を鳴らしている論文がLancetという権威のある医学ジャーナルに掲載されました。
  • 非特異的腰痛への対応
    • 予後がよいことを十分認識させ安心感を与える
    • 病院でレントゲン検査やMRIが行われ、「変形している」「椎間板が減っている」「骨のづれ(すべり)がある」「ヘルにがある」「ちょっと狭窄症がある」などと説明を受けても、これらは腰痛でこまっていない人にもみられる所見で、今後腰痛で困り続けることや重労働を続けられない根拠にはならないことを認識させましょう
    • 腰痛があっても、痛みがよくなるまで安静にし続けるのではなく、仕事をはじめとする普段の活動のうち痛みがあってもできることは、できるだけ制限しないほうが良いことを教育しましょう。
  • 安静と休養について
    • 腰痛に対する恐怖感や悲観的・破局的な考え、そして身体を動かすことへの不安感が強まり普段通り活動することを回避することが、かえって腰痛が慢性化することや再発を繰り返すことに深く関与していると考えられるようになったからです。
    • ぎっくり腰などの非特異的腰痛は、「決して恐れるものではんかう、痛みがあっても心配せずできるだけ普段通りに仕事や生活をしましょう」という安心感と希望を与える指導をした方が、腰痛に悩まされる危険性が減ることがわかってきました。
    • 一方、仕事に支障をきたす腰痛にはストレスを代表とする心理・社会的側面が強く影響することが分かって来ました。過度のストレスや疲労には休養が不可欠です。腰痛があるだけでなく疲労やストレスが蓄積されていると判断される勤労者に対しては、”腰痛のために休ませる”のではなく、”ストレスや疲労(腰痛はその中の一症状)”を回復してもらうために休ませる”という認識で十分な休養を与えることが肝要です。