松平浩 大規模疫学調査から見えてきた日本人の腰痛 医道の日本 2010;799:11-23

  • 例えば腰痛の犯人は椎間板だと信じるほうが、我々整形外科、脊髄外科医にとって治療をしやすいのですが、、椎体間を固定したり、人工椎間板(日本では使用できない)に置換したりしても、必ずしも患者さんを幸せにできていないのが現状です。
  • 非特異的腰痛は、椎間板や椎間関節、仙腸関節、背筋など腰を構成する組織のどこかに痛みの起源がある可能性が高いものの、断定できないものです。画像検査はほとんど役にたちません。
  • 現在、欧米では心理・社会的要因が最も重要な予後規定因子として認識されています。
    • 過去に腰痛歴があっても直近の一年間は腰痛がなかった人が、その後の2年間で仕事に支障をきたす腰痛があらたに発生したことの予測因子を調べました。--有意な、強い要因であったものは、過去の腰痛歴、介護を含む持ち上げ動作が頻繁であるという理解しやすい項目に加え、職場での対人関係のストレスが強いことでした。
    • 無視できない要因として、仕事が単調なこと、不安感が強い、仕事への適合性が低い、活力がない
  • 慢性腰痛の危険因子 欧米では仕事の満足度が低いことや恐怖回避の思考
  • 恐怖回避行動は、医療者が「あなたの椎間板はすごく減っているね」「骨の変形が強いね」「骨がずれているね」「腰痛があったらとりあえず重いものをもってはだめ」「安静にしなさい」といった後ろ向きの恐怖感を与えるような説明をすると助長されると考えています。
  • ベースラインですでに腰痛で仕事に支障をきたしていた勤労者が、翌年も3ヶ月以上仕事し支障をきたしていた危険因子
    • 仕事や生活の満足度が低いことおよび働きがいが低いこと
  • 直近の一年、仕事に支障をきたさない軽い腰痛があったひとが、翌年3ヶ月以上腰痛で仕事に支障をきたした危険因子
    • 介護作業をふくむ20kg異常の重量物取り扱い業務をしていること、家族に支障をきたす腰痛既往があったこと、上司からのサポートが低く、仕事の満足度が低いこと、そして、めまい、頭痛、首や肩のこり、目の疲れ、動悸や息切れ、胃腸の調子が悪いといった身体化症状が強いこと
  • 腰痛だけみつめて治療するよりも、全人的に患者さんをとらえて、認知行動療法的な手法で達成感を積み重ねさせ、楽しい、嬉しい、何かに集中できる、満足するといってボジティブ思考に変換させることが、ドーパミンシステムの不具合を解消させ、結果的に慢性痛もメンタルヘルスも改善できるのではと考えています。
  • 「治るまでできるだけ安静を保つよう指導された」人と、「痛みの範囲内で活動して良いと助言された」人を抽出し、翌年の「ぎっくり腰」の再発がどうであったか調べてみました。
  • 安静群のほうが、3倍以上のリスクで翌年に「ぎっくり腰」を再発しやすく、しかも繰り返す回数が多く慢性化しやすい傾向にありました。
  • 恐怖回避行動を増強させないためには、医療者が、「基本的に放っておいても自然に治るもので、心配しすぎず、痛みの範囲内でできるだけ普通通り過ごしても大丈夫。ただし、再発することもあるが、その都度、心配のない予後のよい腰痛として受け入れるように」と、希望と安心感を与えるように努めています。
  • 安心感を与え、かつ痛みを早期にとってあげることが、慢性化予防に不可欠ですので、楽になるまでは、エビデンス通り鎮痛薬を定期的に服用させることも重要です。
  • コルセットは予防・治療手段としては特に必要ないと考えています。
  • 慢性化している人に対しは、コルセットをつけ続けることによって腰を大事にしようという意識が助長しかつ動きも制限して拘縮を招き得るので、恐怖回避行動を助長させないためにも、コルセットの装用はやめさせ、前述した、反らす体操を指導するようにしています。
  • 臨床現場では患者さんの心理・社会的要因が強い場合、治療に難渋しますよね。そうなると治療者は、「精神的問題だ」とか「心因性」とついつい口にし、忙しいと「心療内科か精神科に行きなさい」と言ってしまいがちです。そうなると、患者さんは傷つき、信頼関係は増悪し、かえって治療抵抗性になります。