住谷昌彦、宮内哲、植松弘進、四津有人、大竹祐子、山田芳嗣 幻肢痛の発症における大脳運動野の関与 麻酔 2010;59:1364-1369

  • ヒト幻肢痛症例を対象とした脳機能画像研究からは、大脳/脊髄上位中枢レべルでの機能再構築(reorganization)が幻肢痛の発症基盤として中心的な役割をはたしていると考えられている
  • このようなS1/M1(senosorimotor cortex)での体部位再現地図の機能再構築は、幻肢痛だけでなく脊髄損傷後疼痛や複合性局所性疼痛症候群(CRPS)でも観察されることから、神経障害性疼痛全般の発症基盤と考えられている
  • 幻肢痛患者の疼痛
    • 皮膚表在感覚に関連した疼痛 刃物で裂かれるような、電気がはしるような、しみるような
    • 運動感覚(自己受容感覚)に関連した疼痛(80%) 痙攣するような、こむらがえりするような、幻肢がねじれるような
  • ACC/PCCの賦活化は幻肢不随意運動によって惹起される疼痛や不快感の程度と相関していたことから、ACC/PCCは不随意運動の制御に関連しているというよりは、不快情動の生成と関連していると理解できる
  • テレスコーピングを知覚する度合は、幻肢運動時に不活化されるS1/M1の手の体部位再現地図領域が縮小して体幹の領域に近づいてくる機能再構築の度合いと相関することが明らかとなっており、幻肢運動の神経基盤は幻肢の発症基盤と密接に関連している
  • 古典的には、脊髄後索内側毛帯路を自己受容感覚や振動覚、精密な触覚情報が上行し、その終点はS1であるとされていた。しかし、最近の研究では自己受容感覚に関する体性感覚情報はM1で認知されていることがあきらかになった。さらに、自己受容感覚がS1でなくM1にも直接的に情報伝達されることや、自己受容感覚に関する体性感覚情報はM1

で認知されることが明らかになった。

  • 切断によるM1機能再構築によって浸食されて不活性状態になっている幻肢の体部位再現地図に対してSCSによって感覚情報入力を行うことは幻肢の体部位再現地図を再現する機能再構築が再び起こり、その結果、幻肢痛が緩和することが考えられる。
  • 幻肢痛の治療 能動的義手の運動学習で部位再現地図が新たに形成―鎮痛効果
  • 鏡療法 患肢の運動情報を視覚的にフィードバックして患肢の運動イメージを形成することによる疼痛治療
  • 視覚入力に加え体性感覚入力も利用したより強力な神経リハビリテーションの開発が望まれる
  • リハビリロボットスーツ
    • 患者が健側肢と同様の運動を患肢でも実行しようと意図することにより、1鏡療法のように健側上肢を運動した際に患側上肢が同様の運動を行うため、身体運動に関する視覚情報+体性感覚情報が入力される、2感覚運動皮質の患肢体部位領域のより強力な活性化が起こる、ことが期待でき、従来われわれが行っていた神経リハビリテーションよりもさらに強力な知覚―運動協応を再統合できるものと考えている
  • 幻肢の発症機序として提唱されたneuromatrix理論(自己の身体を認識する機構が中枢神経系にあり、身体に欠損がおきてもその認識機能が存在するために幻肢感覚・幻肢痛が出現するという仮説)は幻肢を説明するには都合のよく魅力的な説であるが、なぜ幻肢に痛みを伴うのか(なぜ幻肢痛が発症するのか)は、十分に説明できていない