ペインリハビリテーション 2

ASIN:9784895903851


P178-211 第二章第二節 痛みの発生メカニズムー中枢機構

  • 1 脊髄の神経可塑的変化ー中枢性感作
  • 2 脳の神経可塑的変化ー神経因性疼痛
  • MaCabe CRPS患者では顔を触られると患肢と感じることがあると報告した。一次体性感覚野における体部位再現において、顔と手の領域は隣り合わせであり、手からの求心性情報に整合性がなくなることで、体部位再現が可塑的に変化した結果であると考えられている。
  • 一般的に身体の知覚経験に伴い体部位再現が変化することは神経生理学的研究であきらかにされているが、CRPS患者の感覚野における体部位再現が不動による求心性情報の減少による影響か、痛みの持続による可塑的変化であるのかは明らかでない。
  • 関節不動化は脊髄後角細胞の中枢性感作のみならず、大脳皮質の可塑的変化をもたらす
  • アロデニア部位に刺激を加えるた場合において、有意に島皮質、前帯状回、小脳が活動することを明らかにした。島皮質の中でもより全部の吻側部(rostal)の活動が強い。吻側部は嫌悪を感じた際に強く働くことがわかっており、アロデニアのおけるこの特異的活動は、痛みの情動的側面を示しているのではないかと考えられている。
  • 急性痛においては侵害刺激でなくても身体に感覚入力が加わることで、痛み関連領域を過活動させ、痛みを発生あるいは増強させてしまうが、慢性痛においてはシミュレーションやイメージ時に適切な脳領域の活性化が認められず、運動実行における感覚フィードバックとの食い違い(sensory discrepancy)が痛みを引き起こしていると考えられる
  • 頭頂葉(39野(角回)、40野(縁上回))は複数の感覚情報を統合し概念を形成する場所として考えられている。また身体図式(body schema)形成の中心的役割を持ち、ここが傷害されると身体の認知障害が出現する。
  • 現実的に心的回転(mental rotation)課題や運動イメージ課題を慢性痛患者に導入することで臨床効果が見られている理由は、脳内でのシミュレーション時と実際の運動あるいは感覚入力の際の脳活動が等価的になることにより痛みの改善につながっているとかんがえられている。
  • 腹内側前頭前野と島皮質吻側部は、自己の情動的な意思決定の機能を有しており、慢性痛患者においては意思決定や判断といった前頭葉機能が低下し、うつ症状に発展させる可能性が示唆されている
  • 前頭前野は注意や情動をコントロールする場所であり、この萎縮がうつ症状を引き起こしたりすることで、慢性化の引き金になると想定される
  • 3 脳の神経可塑的変化 運動器疼痛
  • 慢性腰痛に関与する責任領域と変形性膝関節症による膝関節痛に関与する責任領域が異なることが明らかにされた。この要因hあ、慢性腰痛は自発痛であり、記憶や情動に基づく痛みであるが、関節疾患の痛みは運動時や関節への荷重時など、局所的で突発的な痛みであり、その質がことなる。慢性腰痛の自発痛は体部位再現に基づいておらず、身体局所に直接的な痛みの原因はなく、過去の経験や記憶の痕跡に基づき脳内で痛みの知覚を生成している可能性がある。したがって、末梢器官からの求心性線維によるボトムアップ情報によって痛みが出現しているのではなく、主に前頭前野トップダウン情報処理の働きによって、痛みの知覚を生み出していると考えられている。
  • 感覚フィードバックに基づいて頭頂葉が活動し、その情報がその後、前頭前野に送られて「痛い」ことを知る(認知)という神経メカニズムのみならず、過去の痛み体験があれば、その記憶に基づき前頭前野が先に興奮することで、頭頂葉を興奮させることによって痛みに知覚を出現させることが可能である。
  • 慢性腰痛患者の自発痛は情動喚起および記憶再生の神経メカニズムによって引き起こされることを示唆すると共に、脳の生化学的変化、背外側前頭前野の萎縮や内側前頭前野の活動変化に伴う情動的な意思決定の欠如やうつ症状などのが総合的に関与していると結論づけている
  • 4 脳で作られる痛み
  • S1,S2を磁気や電気によって関連領域を刺激することで痛みが軽減することが報告されている
  • MacCabe 健常者でも視覚情報と体性感覚情報の不一致が生じると59%の被験者において異常感覚が惹起されることを報告している。そのうち15%の被験者で痛みの知覚が発生している。このように頭頂葉に機能不全に伴って痛みは発生する可能性がある。頭頂葉の機能不全は身体帰属感を失う可能性を有し、これが続くと自己の身体を無視するneglect-like syndromeがおこってしまう。
  • 頭頂葉の機能不全にともなって運動イメージが想起できていないことが判明した。
  • 末梢器官に変化がなくとも、痛みを生み出すことが可能であり、情動、注意、記憶といった高次機能によって痛みが容易に修飾されていることがさまざまな脳機能イメージング研究で明らかにされており、末梢器官に対する治療介入だけでなく、脳機能の再編成を目的とした治療介入が求められよう。
  • 5 ソーシャルペイン
  • 島皮質ー嫌悪感、前帯状回ー情動の中枢
  • 島皮質ー観察者が痛みの強度を査定
  • 下前頭回 ミラーニューロン活動の際に強く働く領域であることから、他者の痛みを共感している
  • 痛みの個人差は大脳皮質レベルの活動の差異に大きく関連。前帯状回の活動は主観的な痛みの変化と一致することがわかっている。したがって、この領域の神経活動の増加が痛みを増大させたり、自発痛を惹起させている可能性が示唆されている。
  • 「痛み刺激を誘発するオプションXを自ら選択すると、脳内に痛みの識別に関する感覚情報と痛みの不快感の感情情報が同時に伝えられるが、この不快な痛み体験Yが前頭前野に記憶され、痛み刺激を感じさせるオプションXに身をさらす場合や、痛み体験の増悪というYについて予測する場合に、不快な直感を経験し、過去の不快な身体状態である痛み体験とそれに伴う自律神経系などの身体の現象が自動的に「身体」に再現される。このパターンを頻回に繰り返すと、脳内における神経回路を形成するニューロン活動が持続的に活性化することで、通常と異なる各個体の人生経験に基づく痛覚の情報伝達経路が形成されていく。この環境と各個体との相互作用の結果としての不快な痛み体験というsomatic stateが、心因性疼痛の理論的機序と言い換えることもできるのではないか」 somatic marker hypothesis by Danasio, 細井
  • 痛みの発生ならびにその増悪には、自己と他者・社会との関係性が大きく関わっていることを示唆。
  • 痛みの根本的な問題は身体局所にない場合が多く、個人の履歴、人間関係、社会的他市場など、その個人を取り巻く環境を知りながらアプローチしていくことが必要になるであろう
  • 6 精神神経疾患の痛みに関連する脳領域
  • 慢性痛患者やCRPS患者においては、情動的な意思決定能力が低下する。
  • 慢性痛患者は、注意、短期記憶、判断といった認知能力の障害を有していることが明らかになったー前頭前野の機能不全
  • 統合失調症 痛みの感受性が低下ー島皮質の活動不全が関与、他者の痛みの推察する能力が落ちていることが予想される