櫻井博紀、平野幸伸 痛みに関する臨床研究の成果と今後の課題 理学療法 2010;27(7):846-851
- 国際疼痛学会IASPは痛みを「不快な感覚性・情動性の体験であり、それには組織損傷を伴うものと、そのような損傷があるように表現されるものがある」と定義しており、ここでは、1痛みに生理学的側面と心理学的側面の両面性があることと、2たとえ損傷が検出されなくても患者が訴える痛みが、“痛み”であるということ、を意味している
- 慢性痛のような病態時の異常な“痛み”はこの生理学的な痛みの伝達機構の働きの観点からは説明できないことも明らかになってきた
- 慢性痛動物モデルによる基礎研究から、病的な状態では痛みの伝達系に可塑的な変容が生じていることが少しづつ分かってきている
- 組織損傷が表出されているものだけでなく、器質的には表出されない生体の末梢・中枢機構における機能的な変化による痛みの存在の重要性が認められてきている
- 臨床的に問題となる慢性痛には、急性痛が共存していることがほとんどである。初期障害部位からの痛みにより姿勢異常や不動化が生じ、それが筋のディコンディショニングなどにつながる。これが更に痛みの源となり二次的な急性痛を引き起こすと同時に、初期障害部位からの痛みの入力が続くことで可塑性をも引き起こす
- この悪循環によって三次的、四次的と、身体面での空間的広がり、自律系異常、さらには心理面、社会面というように多次元での複雑に絡み合った変容を呈し、難治性疼痛となっている。
- 複雑な病態である慢性痛の場合はもっと多方面からとらえていく必要がある。特にX-ray,MRIといった画像では明確な診断ができない機能的な筋の障害に着目していくことが、理学療法士として重要である。
- 慢性痛患者では体性感覚だけでなく自律神経系にも異常を来していることが多い。例えば、気温の変化により痛み、しびれ感などの症状が悪化するなど気候変化による痛み感覚の変,,化には、交感神経系など自律神経活動が関与していることが考えられる
- 脳機能
- Juottonen
- 終わりに
- 痛みの特に慢性痛においては、身体面での空間的な拡がり、自律系異常、さらには心理面、社会面というように多次元での複雑に絡み合った病態を呈するようになることを述べた。このような状態では、さまざまな系に可塑的な変容が生じていることが分かってきており、多面的な評価とアプローチが必要となってくる
- 痛みに対する理学療法は身体面の痛み・機能にばかり目を向けるのではなく、痛みをトータルペインと捉え、患者のQOL向上を目指していく必要がある。そのためには、まず患者との信頼関係を築き、患者が能動的に参加していけるようにすることが重要である。さらにさまざまの視点からの評価により、急性痛と慢性痛の鑑別などの病態を分解して捉えることが必要で、それぞれの要因に適したアプローチを構築していくことが求められる。効果的な治療を行う為にも、今後更なる臨床研究によってエビデンスが構築されることが期待される