筋骨格系の痛み その慢性化のメカニズム

仙波恵美子 筋骨格系の痛み その慢性化のメカニズム 臨整外 2011;46(4):291-298

  • 「ロコモ」と「メタボ」の予防は、生活の質を維持するために最も重要な条件である
  • 皮膚からの痛覚受容線維は脊髄後角のI,II層に終末し、筋肉からの痛覚受容線維はI,V層に終末する
  • 痛覚伝達系のうち脊髄後角V層のwide dynamic range(WDR)ニューロンから発する脊髄―視床路は、視床後腹側核(VPL,VPM)でニューロンを替え、体性感覚野(S1,S2)に投射して痛みの識別に関与する外側系と、視床の内側核群を経て前帯状回(ACC)の後部や島皮質(IC)に至り痛みの情動や認知に関与する内側系に分けられる
  • 急性痛の脳イメージング S1,S2,ACC,ICでの血流の増加が観察される
  • 慢性痛 ACC,ICでの血流増加が著しい
  • ACCやAmyでは、組織の損傷や持続的な疼痛刺激により長期増強(LTP)が形成されることもわかってきた
  • ICは体温空腹渇き痛みなどさまざまな体内情報の感覚情報を統合し、適切な情動反応に結びつけるという機能を担っている
  • 扁桃体外側部lateral capsular subdivision(CeLC)は”nociceptive amygdale”と呼ばれている。この領域は脚傍核から興奮性の投射をうけるが、関節炎や内臓痛、神経障害性疼痛のモデル動物ではこのシナプスでLTPが形成され、それが慢性疼痛にともなう不快な情動の生成に関与すると考えられる
  • 上記脳領域の興奮は、下行性にPAGやRVMなどに伝わり、そこから脊髄後角に投射して痛みを修飾している。
  • 慢性疼痛の特徴として、1線維筋痛症、慢性腰痛、顎関節症など筋骨格系や深部組織の痛みが多い、2全身性あるいは両側性に痛みや痛覚過敏がみられる、3ストレスにより痛みが増強する、ということがあげられる
  • なぜ、筋骨格系の痛みが慢性化しやすいか? ひとつには痛みの性質が違う、すなわち表在性の痛みにくらべて、より不快な痛みであることによる
  • 慢性痛や線維筋痛症の患者では、同じ強度の刺激に対し、対照群に比べてより多くの脳領域で血流が増加することも示されている。すなわち、筋骨格系の慢性疼痛はより不快な痛みであるため、情動に関与する脳領域が強く興奮する。そのことが下行性疼痛調節系を介して全身性・両側性の痛みの増強につながると考えられる。
  • このように、身体のどこかの局所の異常によるものでなく、痛みの中枢でのprocessingに問題があるという病態の顕著な例として、線維筋痛症ならびに類縁の疾患、過敏性腸症候群顎関節症などがある。これらの病態は、特発性あるいは機能的疼痛症候群、central pain syndromeとも呼ばれている。線維筋痛症ではもう一つの下行性疼痛抑制系であるdiffuse noxious inhibitory controls(DNIC)系が減弱しているという報告も多い
  • 痛みで運動できないときには、trigger pointに局所麻酔薬を注射するブロック療法が効果的である
  • 慢性疼痛による上位脳の活性化がPAG-RVM系を介してさらに痛みの増強に働くように、ストレスも同じメカニズムをつかって慢性疼痛を増強するのではないかと考えられる
  • 慢性疼痛では、局所の炎症を抑えるNSAIDSは効果がなく、脳をターゲットとした治療が有効である