慢性疼痛の薬物療法

桑原秀樹、塩入俊樹 慢性疼痛の薬物療法 精神科 2006;9(4):288-292

  • Fordyceが慢性疼痛の臨床像を知覚としての疼痛と、疼痛に対する随意運動である疼痛行動とに分け、慢性疼痛の場合、その治療の対象となるのは、疼痛行動であると主張したように、慢性疼痛の治療においては、疼痛そのものの軽減はさることながら、より重要なのは患者の疼痛に対する認識をかえることによって、疼痛行動の変容を促すことである。
  • 慢性疼痛患者においては、思考、感情、そして行動が疼痛により左右されてしまい、このため自分自身に対する見方が「受身的・反応的・無力」となってしまっていることが殆どであるが、患者自身の疼痛に対する認識を変え、「自分で何とかコントロールできる」、「疼痛があるがなんとかなりそう」というように再認識させることによって、見方を「積極的・臨機応変・有能」へ置換し、患者自身がもつ能力に対する自信の回復を促し、その結果、苦痛が軽減され、疼痛行動が減り、疼痛に対する能動的で適応的な行動、つまりよりよい対処行動を行えるようにしようというわけである。(文が長い)
  • SSRIのようなsingle actionの抗うつ薬よりも、SNRIのようなdual actionの抗うつ薬の方が、疼痛の緩和に有効とされており、SSRIの慢性疼痛への効果はTCAやSNRIに比べ限定的といわざろう得ない。
  • milnacipran dual action drug, cytochrome P450による代謝をほとんど受けず、CYPの酵素活性を阻害しないため薬物相互作用に基づく副作用を引き起こす可能性が少なく、外来診療においても使いやすい薬剤であり、今後さらなるエビデンスの蓄積が期待される。
  • 一般的に鎮痛薬あるいは抗不安薬による治療は、ほとんどの慢性疼痛患者に対して有効でないばかりか、医原性の物質依存や乱用の原因となりうるために、これらの薬物の使用には十分な注意が必要であり、少なくとも長期運用は避けるべきであろう。