痛みの精神症候学

重田理佐、濱田英伯 痛みの精神症候学 臨床精神医学 2008;29-32,2008

  • 疼痛障害の概念は心因の関与を巡って変遷を繰り返してきた
  • DSM-I,II 「情緒的原因によって起こった身体的症状」が心理生理学的障害と記載されている
  • DSM-III 心因性疼痛障害 心理的な要因にかかわると判断され、しかも痛みの原因となるような器質的な病理が見いだせないか、器質的所見があったとしても痛みの訴えの説明には不十分な場合と定義された
  • DSM-IIIR 身体表現性疼痛障害という用語を採用し、診断基準に「少なくとも6か月以上の痛みへの囚われpreoccupation」を加え、「心理的な要因」を削除した しかし、痛みへの囚われという意味や、身体所見のある痛みと身体表現性の痛みの質的な違いが不明瞭であること、急性の痛みが取り上げられていないことなどの点が批判された
  • DSM-IV-TR
  • A ひとつまたはそれ以上の解剖学的部位における疼痛が臨床像の中心を占めており、臨床的関与が妥当なほど重篤である
  • B その疼痛は臨床的に著しい苦痛または、社会的、職業的、またはほかの重要な領域における機能の障害を引き起こしている
  • C 心理的要因が、疼痛の発症、重症度、悪化、または持続に重要な役割を果たしていると判断される
  • D その症状または欠陥は、(虚偽性障害または詐病のように)意図的に作り出されたりねつ造されたものではない
  • E 疼痛は、気分障害、不安障害、精神病性障害ではうまく説明されないし、性交疼痛症の基準を満たさない
  • 行動療法理論から導かれたFordyce WEらの疼痛行動は、痛みそのものを問うのではなく、痛み体験をめぐる患者の行動を取り上げることで客観性を高め、治療の対象を明確化しようとする意図をもつものである
  • 著者の一人は、離人症のために内外の実感を失っている患者は、それを取り戻そうと知覚の感度を自ら一段階高く設定しなおすのではないかと考えている。それにより過度覚醒になった主体が些細な情報を拾いすぎてしまい、結果的に外には感覚過敏や本質属性の優位にたつ妄想知覚を、うちには体感異常や精神痛などの症状をもたらすのではないだろうか?
  • 痛みは、ありふれた症状であるが、身体・心理・社会的な側面の混じり合う人間全体から捉えるべきものである。その背後には自我意識の障害や、失ったものを取り戻すコーピングとしての心理要因の関与も推定され、診断や治療に多面的なものの見方とさまざまな方法の統合が必要である。