谷川浩隆 身体診療科における心身医療 −歯科と運動器との共通点からの検討 歯界展望 2009;113:1136-1140

  • 口腔や顔面の疼痛の症状は頚部痛や肩こりなどの整形外科で扱う運動器疼痛と類似している点が多い
  • 精神科を受診する患者は身体症状の原因が心理的なものであるとみずから気づいているのに対し、整形外科を受診する患者は、たとえ心理的原因があってもそれを認めない。本人の「気づき」のない患者はアプローチが困難であることが多く、つまり精神科を受診する患者よりも難しい心身症症例が整形外科のような身体科を受診すると考えられるのである
  • 機能性身体症候群では、疼痛を主体とした身体症状に抑うつが複雑に絡み合った症状を呈することが多く、このような病態を筆者は痛むうつpainful depressionとして提唱した
  • 一般に身体科医は心理的治療の門外漢であるが、しかし身体科医が心身症患者をそれと気づかずに治療しても、きわめて良好に患者・医師関係が結ばれ、治療が順調に進むことのほうが圧倒的に多いのが事実である。これは、患者が身体的疾患を確信しているので、治療医自身が純粋に患者の疼痛を身体的疾患と考えて治療することのほうが、より患者のニーズに合致するからである。心身症のことなど頭の片隅にもなく、どこかにかならず器質的身体的な障害があると確信しん診断治療を進めていく医師の姿自体が、患者の信頼感を増し不安を払拭させることになるのである。
  • 歯科や整形外科などの身体診療科医による心身医学的治療には、いくつかの問題点がある。患者は疼痛の原因が純粋に器質的であると確信しているため、心身医学的アプローチを拒否する
  • 同じ抗うつ剤でも、精神科医心療内科医が投与するのと、身体的治療を期待されている整形外科医や歯科医が投与するのでは、患者にとっての意味合いが全く異なる。心身症患者は副作用もまた身体化しやすいため、副作用の過度に詳細な説明があると本来生じないはずの副作用が出現することもある