スポーツ医学の現場から

佐藤のり子 スポーツ医学の現場から 科学 2006;76:713-715

  • スポーツ障害におけるペインコントロールの意義は、急性期と慢性期では大きく異なる
  • 急性期においては、選手に痛みを覚えさせないことが重要である。痛みを覚えたからだは臆病になる。選手らは運動能力が優れているために苦もなく疼痛回避フォームを身に着けそれなりの結果を出す。しかし、目的のあるフォーム改造ではないため、本人も気づかぬまま不調に陥る。フォームの乱れを修正することは困難で、それにともなう筋力低下がいっそう不調を加速する
  • スポーツ障害において慢性期のペインコントロールの目的は、選手生命の延長にある
  • 痛みに悩まされている選手たちは、ときに相矛盾する行動をとることもある。痛みと長年つきあってきた選手にとっては、痛みが簡単にとれてしまうことにも困惑するのである。
  • 除痛治療でなく東洋医学が珍重されるのは、病態把握と予後予測を知りたくないし知られたくないという、彼らの願望の表れなのかもしれない
  • スポーツ外来で医師がフォームの改造、トレーニング法の修正、手術、リハビリテーションの持論を展開する。ばかげた自己満足にすぎない。
  • 医師がプロ選手のニーズを満たしてくれないと知っているからプロスポーツの側は期待しない。現実のプロスポーツの最前線では何が求められているか、医師は学ばなくてはならない。
  • 瞬時に痛みはとれるかへの答えはyesである。けれども痛みによって芽生えた不安は瞬時にはとれない。
  • ペインコントロールはその病態への対症療法だけでは解決できない。痛みは人間におこったさまざまな負の要因の複合産物なのである。医師が個々の負の要因を理解することもペインコントロールには必要である。そしてなにより自分を選んでくれた患者に信頼されることが、ペインコントロールには大切なことだと思う