痛みをめぐる社会状況と治療の進展

花岡一雄 痛みをめぐる社会状況と治療の進展 科学 2006;76:700-704

  • 長期間に渡って患者が痛みを感じていると、ちょうど、聴覚や視覚のように、痛みも脳内に記憶されることになる。本来の疾患が治癒しても痛みの記憶だけが取り残されたために患者が苦しむこともまれではない
  • 帯状疱疹後神経痛 太い神経線維の役割は触覚の信号伝達。細い神経線維のそれは痛みの感覚の信号伝達。帯状疱疹ウィルスによって食い散らかされた神経線維は再生されるものの、年齢が高くなるほど太い神経線維は再生されにくく、再生されても細い線維となってしまう。そのため触った感覚は伝えられないので、すべての感覚の信号は細い神経線維で伝えられる。したがって、触った感覚も痛みとして患者は感じることになる
  • 痛みは患者本人しかわからないし、できるだけ早めに痛みを軽減するために治療を開始することが大切である。早い痛み対策がその後の痛みを和らげることはいうまでもない。
  • 侵害受容性疼痛、神経因性疼痛心因性疼痛 おそらく初期はそれらが別々に存在することもあるようであろうが、長期間にわたってくるとそれらが合体することで複雑にからみあってくる。そのような状態になるとそれぞれを切り離すことが非常に難しく、また、一つ一つの疼痛を軽減させることはほとんど不可能になる。それが難治性慢性疼痛である。そのことからも早い痛み対策が大切であり、それが、その後の痛みを和らげるのである。

村川和重、森山萬秀、柳本富士夫、中野範 ペインクリニックと痛みの治療 科学 2006;76:707-712

  • IASPでは痛みを、“実際の、または潜在的な組織損傷を伴う不快な、感覚的、精神的な経験”と定義している。したがって、治療対象となる痛みは、次に述べるようなあらゆる種類の痛みに関わる経験としてとらえることが重要であり、患者が痛みを訴えれば、それはすべて痛みとして受け止めることから診療は始まる。
  • 痛みをその発生機序から分けると、侵害受容性疼痛、神経因性疼痛心因性疼痛に分類される
  • 慢性痛などの多くの機能的な痛みにおいては、痛みが持続していること自体が痛みに過敏な状態を形成して、痛みを増強させている。そこで神経ブロックによって痛み刺激の脊髄への入力を一時的に抑制し、持続していた過敏な状態を解除することで、結果として痛みの軽減につながる。すなわち、局所麻酔薬によって神経ブロックを繰り返すことによって、局所麻酔薬の作用が消失した後も、痛みは徐々に軽減して消失するのである。
  • また神経ブロックによる交感神経の遮断は、支配神経領域の血管を拡張させ、血流を増加させる。その循環改善作用がもたらす二次的効果も大きい。神経因性疼痛などでは交感神経を介する疼痛発生の機序が示唆されており、交感神経の遮断は直接的な疼痛の軽減にもつながる