経皮コルドトミーの経験 ー脊髄痛覚伝導路の不思議

長櫓巧 経皮コルドトミーの経験 ー脊髄痛覚伝導路の不思議 麻酔 2005;54:S44-S55

  • 経皮的コルドトミー(percutaneus cervical cordotomy;PCC)は、脊髄の痛覚伝導路が位置している前側索を破壊して鎮痛を得る方法である。現在第1−2頚椎間で施行され、主にがん性疼痛の治療に用いられている
  • 1991年 Th7の高さで両側前側索切断術(観血的コルドトミー)が最初
  • 侵害性入力はAδおよびC線維を伝い、後根から脊髄に入り、後角に達し、投射ニューロンに入る。投射ニューロンの約80-90%は脊髄交差し、反対側の前側索を上行する。これは、視床脳幹網様体、中脳に達し、侵害受容に対する感覚的、情動的および身体的反応の発現に関与する
  • 脊髄交差した投射ニューロンは前側索の腹側に順次加わる。その結果、痛覚伝導路には体部位局在ができる。コルドトミーの経験より仙骨神経領域の線維が前側索の外背側に、そして頭側の領域の線維ほど腹側、そして深い部位に位置することが分かっている。
  • 侵害刺激の種類によっては侵害性興奮が前側索を経由しないで脳に達するか、強い刺激では他の部位の脊髄神経線維を経由して脳に達することを示している。
  • もし脊髄の痛覚伝導線維がすべて前側索にあり、再生せず、可塑性がなく、そしてすべての痛みがこの部位の神経興奮(伝達)で起こるならば、コルドトミーにより痛覚および痛みは消失し、その効果は持続するはずである
  • 頻度は少ないが、前側索が広範囲の破壊にもかかわらず痛覚が消失しなかった症例の報告がある。この原因として、脊髄交差の割合の少ないことや、他の部位に痛覚伝導路が存在することが挙げられる
  • 誘発痛を伝える伝導路と病的な痛みを伝える伝導路が異なっていることを示唆している
  • 一般に神経因性疼痛で伝導路遮断の鎮痛効果が悪いと考えられている
  • 良性疾患の神経因性疼痛では前側索の伝導路が関与しない症例がかなりの率あると考えられている
  • ロディニアは前側索の関与が少なく後索の神経が関与するとする報告があり、アロディニアには前側索の関与が少ない可能性がある。
  • Melzackらは,脳幹網様体に入る入力の減少により下行性抑制系の減弱が起こり、すべてのレベルでの抑制が解除されて関連痛がおこると推論した
  • 著者らは、神経ブロックの手法を用い、次の2症例で反対側の痛みが元の痛みよりの侵害刺激でおこる関連痛であることを証明した
  • 痛みの新生および増強は、強い痛みが消失し、反対側の器質的、機能的な原因による意識に上らなかった痛みが顕在化、または弱い痛みを強く感じて起こる可能性もある
  • PCCによる痛みの新生および増強が起こりやすくなる機序として、元の痛みの部位からの関連痛の機序のほかに、PCCによる下行性抑制系の直接遮断、中枢への侵害性入力遮断による間接的下行性抑制系の遮断などが考えられる。
  • コルドトミー後の痛覚の再発の機序として、Whiteらは1.第二次ニューロンの再生 2.Uncross fibersが大きな役割を担うようになる3.他の伝導路(後索、後側索、多シナプス性)が侵害刺激を伝えるようになる可能性を挙げている
  • 脊髄の痛覚伝導路は、電線のような可塑性のない線維からなる単純な伝導路でなく、複雑で可塑性に富んだ系である