松原貴子、鈴木重行 2運動療法の実際 第6回 難治性腰痛に対する集学的アプローチ 整形外科 2010;61(9) 広告のページ

  • 難治性腰痛は、観血的治療や保存的治療によっても改善されない慢性疼痛であり、身体的要因のみならず、精神心理的、社会的要因が複雑に絡み合った病態を呈し、治療に難渋することが多い。したがって、痛みの身体的要因を追及するだけでは、この腰痛を治癒に導くことは難しく、全人的かつ多角的な集学的アプローチ(interdisciplinary approach)が必要となる
  • 痛みは個人の主観的体験であるため、他者がその程度や苦痛を理解することは難しい。そのため、慢性疼痛患者は、痛みに基づくさまざまな疼痛行動をとり、周囲の人に自身の苦痛を理解してもらおうとする。
  • 疼痛行動とは、痛みの訴え、苦渋の表情・姿勢、服薬、過剰受療行動、対人関係の悪化・破綻、休職、訴訟などの社会的行動のことであり、これらの疼痛行動が慢性疼痛患者のADLやQOLを低下させる主要因とされている。
  • 疼痛行動は、痛みの伴い学習された”自発的、能動的、随意的な行動(オペラント行動)”であり、周囲の人から注目・関心・同情などから何らかの報酬(「正の強化」)を得られ、社会的な責任・義務・役割などの回避(「負の強化」)も得られることになるため、さらに疼痛を持続・悪化させてしまう。また疼痛が慢性化すればするほど、疼痛行動は強化され、認知の歪みを生み出しやすくなる特徴がある
  • 難治性腰痛を含む慢性疼痛患者に対しては、高強度の運動よりも、歩行のような低強度のプログラムが推奨されている
  • 診察時のポイントは、痛みの訴えや疼痛行動については傾聴程度にとどめ(「消去」)、一方、歩行・運動・作業・ADLなど適応運動を獲得できたことに対しては注目し、支援・賞賛・報酬を与える(「強化」)ことである。
  • 慢性疼痛患者は他者からの注目や関心(報酬)を得ようとする傾向にあり、他者への依存や非自発的な思考・行動を強く示す。したがって、治療者の助言により、”患者自身が「自己分析」を行い、痛み認知と行動のギャップを是正し、目標行動・活動を設定、修正するよう学習していく”ことが重要である。
  • 患者、治療者の双方が痛みの原因追究・鎮痛自体に執着することを避け、あくまでも患者のADLやQOLを引き上げることに焦点をあてる
  • 運動 ADLに直結し、継続しやすいものとする。「腰を動かす、鍛える」わけでなく、運動によって「頭を使う、鍛える」(認知の修正と再学習)ことを十分に患者に理解させた上で運動療法を実践しなくては意味がない
  • 活動量のモニタリングのポイントは、患者が自身で確認・把握できるものがよい
  • 痛み活動日誌 「痛みを忘れていた」、「楽しかった」、「こんなことにチャレンジした」など、これまで痛みにマスキングされていて、認識できていなかったポジティブなイベントを記録として残すように指導していく
  • 難治性疼痛のリハビリが十分確立していない要因
    • 理学療法において
      • 痛みに対する医療保険制度が未整備なまま
      • 痛みの専門教育が圧倒的に少なく痛み専門セラピストが育成されていない
      • 難治性疼痛や慢性疼痛に関する概念がほとんどないままに日々の診療が行われている
    • 患者側の問題点
      • 受け身体制、依存心ならびに、痛みに関する誤解と知識不足、社会的な問題として家庭や会社の痛み診療に対する理解不足など
  • 現在痛み対しておこなう理学療法は、一般的に「消炎鎮痛処置」として算定され、診療報酬が非常に低い