心気症

#1 中村敬、樋ノ口潤一郎 高齢者の心気障害の臨床 老年精神医学雑誌 2004;15(4):415-422
#2金井貴夫、石郷岡純 高齢者の身体的心気的訴えの薬物療法 老年精神医学雑誌 2009;29(2):173-179
#3 栗田主一、井上由紀子、野呂雅人 身体的心気的訴えへの医療連携 老年精神医学雑誌 2009;20(2):185-189

#1

  • DSM-IV-TR 心気症 hypochondriasis
    • 心気症は身体症状に対するその人の誤った解釈に基づき、自分が重篤な病気にかかる恐怖、または病気にかかっているという観念へのとらわれが基本特徴であり、そのとらわれは適切な医学的評価や保証にも関わらず持続するが、妄想的な確信にまでは至らないものである。すくあんくとも6か月間の持続という条件がつけられている。
  • ICD-10 心気障害 hypochondriacal disorder
    • 心気障害の本質的な病像は進行性の身体的障害に罹患している可能性への頑固なとらわれである。DSM分類とことなり醜形障恐怖(身体醜形障害)もこのカテゴリーに含めているためか、「数人の医師の忠告や保証を受け入れることの頑固な拒否」といった強い表現が用いられている
  • 精神病理学の立場から吉松は4つの本質的要素 心気症は4つを兼ね備える 
    • 心身のささいな不調 (セネストパチー、体感幻覚)
    • 病的なとらわれ (心気妄想)
    • 疾病恐怖 (疾病恐怖的不安状態)
    • 他者への訴え (ヒステリー的様相)
  • 初診の際、主治医は患者の疾病恐怖を、よりよく健康に生きていたいという欲求の裏返しと説明し、その欲求を病気との闘いに浪費せず、日々の生活の充実へと向けるよう助言したところ、次の診察では、病気へのとらわれを自覚できたという
  • 初診時、15枚にわたりこれまでの症状と治療歴をつづった便せんを持参。対症療法でなく症状の真の原因を見極め、それを取り除く治療をしてほしいとういう
  • 宮岡らが指摘するように、向精神薬は一次性心気症に有効だとはいえず、かえって副作用があらたな心気症を形成する可能性があるからである。こうした症例には、薬物療法のみならず森田療法のような精神療法的アプローチが重要になる
  • 疾病恐怖に駆られた患者は自己の身体感覚に注意を集中させ、それが病覚を高めて一層の不安を呼ぶという悪循環に陥りやすい
  • これらのとらわれ(悪循環)から脱するためには、疾病不安に対する患者の態度をとりあげ、不安との闘いに専心して本来の生活がおざなりにされている構図に患者自身が気づくことが重要である。

#2

  • 高齢者の心気的訴えに対しての治療において前提となるのは、身体症状を治そうとするのでなく、その症状によって生じた機能障害(生活・行動能力の低下、生活の質の低下)を改善することである。
  • 我が国の心気症 「検査でも身体的異常所見がないのに身体症状をくどくど訴える状態」
  • ICD-10の心気障害「身体症状が特定に身体疾患によると固執して訴える状態」
  • 1989精神科国際診断基準研究会・神経症圏障害検討小委員会の診断分類とその亜型の臨床的特徴
    • 疾病固執型、自律神経障害型、多訴型、疼痛型があり、高齢者は疾病固執型と疼痛型が多い
  • 各種RCTにおいても心気症や不定愁訴には認知行動療法が最良のエビデンスであるとされている
  • 特に治療者が「身体症状を治療している」という姿勢を示すことは重要であり、中枢神経系薬物のみならず、末梢神経系薬物を使用することはきわめて治療的であると思われる
  • TCA 抗コリン作用による口渇や便秘、動悸などの副作用が心気状態を悪化させるリスクもあるため使用に際しては注意を必要とする
  • 疼痛障害に関しては、DSM-IV-TRの身体表現性障害の各項目のなかでもエビデンスの集積も多い。詳細は割愛するが、疼痛性障害の薬物療法においては、抗てんかん薬、SNRI,SSRI,TCAが効果があるとされる
  • スルピリドは高齢者では効率に錐体外路症状が出現するので、一日一回30-50mgなど少量で使用することが望ましく、消化器症状を訴える患者には有効と思われる
  • ベンゾジアゼピン系薬物を使用する場合は4週間以内に限定することが必要である
  • 高齢者にみられる心気症に対して八味地黄丸を推奨

ucymtr注 症状でなく機能障害を改善というところは慢性疼痛の治療と類似
#3

  • 身体的心気的訴えをもつ高齢者は、健康問題に対する憂慮とともに、しばしば孤立状態にあって、社会的支援そのものが不足している状況にあることが少なくない
  • 吉松 心気症とは、心身のささいな不調に著しくとらわれ、医学的専門的な診察や検査によってもこれに該当する所見を見出すことができず、医学的保証にも関わらず、その不調に必要以上にこだわって、重大な病気の徴候ではないかと恐れ、しかもその恐れを他者に執拗に訴え続ける状態」と定義し、「心身のささいな不調」「病的なとらわれ」「疾病恐怖」「他者への執拗な訴え」を心気症の必須事項として取り出している。
  • 身体的心気的訴えをもつ高齢者は、個人の健康問題に対する憂慮と共に、認知機能低下やADL低下などによる機能障害のために、現実に社会的支援が必要な状況におかれていることが少なくない。にもかかわらず、必要な支援が提供されず、孤立した状況におかれているために、不安が身体的心気的訴えとなって表出されている。