半場道子 慢性疼痛の性差  Modern physician 2002;22(10):1245-1248

  • 総体的に女性は男性に比して、より苛酷な痛みを、より長く、より頻回に経験しており、痛みが原因で社会活動に支障をきたしている例が多い
  • 外傷などによって強い痛みが反復持続して加わった場合は、痛覚受容細胞に特徴的な現象、central sensitizationが起きる。これは痛覚受容ニューロンの興奮性が急速に増大し、刺激閾値が低下し、受容野が拡大する現象。そして増大した興奮性は、遺伝子発現や蛋白生成によって、長期間にわたって維持される
  • このような可塑性変化のtriggerはカルシウムチャンネルであって、痛み信号の繰り返し入力によって活動依存性に伝達物質の放出を増大させ、シナプス伝達効率を変化させている
  • 家族性片麻痺性偏頭痛(FHM)を持つ患者の遺伝子が解析され、責任遺伝子としてカルシウムチャンネル変異が同定された
  • カルシウムチャンネルは神経終末、脳細胞、血管など脳内至る所に存在し、セロトニンを含めた伝達物質の放出や、シナプス伝達、脳内血管運動やせい化学反応の制御を行っている
  • エストラジオールなどの性ホルモンは、チャンネル機能に長期的影響を与える為、月経や妊娠による性ホルモン変動は、発作頻度を変化させる
  • 骨粗鬆症  卵巣摘出により骨粗鬆症を起こしたモデル動物では、セロトニン受容体が減少しており、下行性抑制系の機能の消失あるいは減少していた。このモデル動物では、グルココルチゾールレベルも減少しており、性ホルモンの減少がセロトニン受容体減少を招いたと考えられている

半場道子 痛みの神経生理学 −痛みの早期遮断の重要性 歯薬療法 1999;18(3):156-164

  • 痛みの侵害受容器 高閾値機械受容器、polymodal receptor(熱機械化学侵害刺激と非侵害刺激など、多様な様式の刺激に応じる)
  • 痛みの信号はAδ神経線維とC神経線維によって2次ニューロンに伝達されれ、痛覚伝導路を辿って視床そして、大脳皮質感覚野へ伝えられる
  • 末梢組織に強い痛み刺激が繰り返し加わると、入力信号によってニューロンの興奮性は急速に増大し、windup現象、シナプス長期増強(long-term potentiation)やimmediate early geneの発現などが起こる
  • 脊髄後角や尾側亜核の痛覚ニューロンは、従来、伝導路上の一中継点と考えられてきたが、たんなるrelay装置ではなく、痛覚信号の増幅と抑制機能を持ち、多様な遺伝子を発現させる神経可塑性を有していたのである。
  • このことを考えるとき、痛みをperipheral sensitizationの段階で早期に抑えることは極めて肝要なことといわねばならない。痛みの早期遮断は苦痛を現時点で除去するだけでなく、慢性疼痛への転化を将来にわたって防止する、極めて重要な役割を有する。ありふれた薬物とかんがえられがちなNSAIDsと局所麻酔薬が、実は大変な役割を果たしているのである。薬物投与や緊急処置を考えるとき、いかに速,,やかに痛みを遮断し鎮痛をもたらすかが今後重要な決め手となるのであろう。